時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。 和田靜香著、小川淳也取材協力
[レビュアー] 高橋秀実(ノンフィクション作家)
◆人思い泣ける感性こそ政治に
新型コロナウイルスもそのひとつだが、世の中にはわからないことが多々ある。わからないのでわかる人(専門家)に訊(き)くしかないのだが、わかる人も「わかる」という役割をこなしているだけで本当はわかっておらず、それがわかると途方に暮れるのである。
「これからどうなっちゃうんだろう?」
相撲・音楽ライターの著者は息が詰まるほどの閉塞(へいそく)感と不安に苛(さいな)まれているという。ライターとしての仕事は減る一方だし、コロナ禍でおにぎり屋でのバイト(時給は最低賃金)もクビになった。単身の五十六歳。「私の不安は日本の不安」。そう考えた彼女は映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』に主演した小川淳也衆院議員のもとをたずねる。取材といえば取材なのだが、彼女は何をどう質問したらいいのか分からず、相手から質問内容を訊き出すという徒手空拳なインタビューを敢行したのである。
高齢化社会、失業、社会保障…。本当は何が問題で何を究明すべきなのか。税金とは何か?貨幣とは何か?という具合で原点からの問い直し。相撲でいうと下からの「突き上げ」のような問いかけで、小川議員はしばしば返答に窮するが、逃げることなく誠実に向き合う。とはいえ政治には「これで解決」というような正解がないので、著者の「モヤモヤ」は晴れない。大体、自分のようにギリギリで生きている人のことをどう思っているのか?と切り出すと、小川議員は「みなさんの人生はどれも誇るべき、誇らしい、尊いものです。それは俺にとっても他人の誰かじゃない。おふくろであり、おやじであり…」と答えながら涙をぬぐったという。泣き落としのようだが、著者が求めていたのはこうした言葉だった。
戦後の教科書(『民主主義』文部省、一九四八〜五三年使用)に記されていたように、日本の民主主義は政治のシステムではなく、「人間の尊重」である。人のことを思って泣ける感性。日本(自分)の将来についても、いったん思い切り泣いてから考えたほうがよいのかもしれない。
(左右社・1870円)
和田 著書『東京ロック・バー物語』。
小川 2005年初当選。立憲民主党所属。
◆もう1冊
稲葉剛、小林美穂子、和田靜香著『コロナ禍の東京を駆ける 緊急事態宣言下の困窮者支援日記』(岩波書店)