読めれば目ウロコ “老い”のトリセツ

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こころの熟成

『こころの熟成』

著者
ブノワ・ヴェルドン [著]/堀川 聡司 [訳]/小倉 拓也 [訳]/阿部 又一郎 [訳]
出版社
白水社
ジャンル
哲学・宗教・心理学/心理(学)
ISBN
9784560510469
発売日
2021/10/25
価格
1,320円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

読めれば目ウロコ “老い”のトリセツ

[レビュアー] 林操(コラムニスト)

 今回紹介する『こころの熟成』は読者を選びます。

 まずは、自身なり身近な誰かなりの老化に心配や苦労のあるアナタ。心身の衰えが気になる程度から棺桶に片足なんとやらのレベルまで、老いが他人事でないというのが第一の条件です。

 その上で、心理学や精神医療に興味関心のあるアナタ。この本、専門用語がそれなりに出てきて、その解説が懇切丁寧というわけでもないゆえ、フロイトの名前くらいは知ってますなんて人が読み進めるにはググり続ける根気が必要かと。

 そして最後に求められるのは、この新書を新書だとは思わずに開けるアナタ。判型こそ新書判ながらコレ、白水社の文庫クセジュの一冊で、中身はフランスの教養選書のストレートな和訳なのよ。著者のブノワ・ヴェルドンも3人の訳者もみな高度な専門家で、入門書であることが前提の“新書調”の語り口とは無縁。

 と、さんざ脅されてもここまで拙文におつきあいくださったアナタに、この本をお薦めします。発達期の心理学を老化に援用できるかとか、78歳のトルストイは幼児のように母の胸の内への回帰を夢見ていたとか、耳新しい研究成果から晩年の著名人の実像まで、老いの心理についての知見が山盛りで、その対象は認知症から性、介護までと広い。筒井康隆なら一読、老人文学の快作をまたひとつ生みだしそうだし、ワタシでさえ読後はなんだか心が柔らかくなって、己や周りの人の老化の見え方が変わりました。いや、ホントに。

新潮社 週刊新潮
2021年12月23日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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