『白銀騎士団』
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白銀騎士団(シルバー・ナイツ) 由来記 田中芳樹
[レビュアー] 田中芳樹(小説家)
二〇〇五年のこと。長らく中断していた『アルスラーン戦記』シリーズを光文社で再開させてもらうことになって、何か記念の企画を、という話になった。このあたり、とみに記憶力が衰えている上に、自分につごうよく記憶が改変されている可能性があるので、話半分ぐらいにお読みいただきたい。
とにかく、『アルスラーン戦記』を柱として、『小説宝石』の別冊を出そう、ということになり、誌名は『英雄譚』と決まった。何だか大仰になってきたな、と思っているうち、寄稿してくださる方々のリストが送られてきて、小心者の私は狼狽した。皇名月(すめらぎなつき)、あさのあつこ、上橋菜穂子(うえはしなほこ)、冲方丁(うぶかたとう)、奥泉光(おくいずみひかる)、朱川湊人(しゆかわみなと)、梶尾真治(かじおしんじ)、森見登美彦(もりみとみひこ)……敬称略で失礼だが、ウルトラゴージャスなオールスターメンバー。すでに芥川賞や直木賞を受けた方々もいらっしゃる。この中で私がメイン? あのね、誰だって大谷翔平になれるわけじゃないのだよ。
「田中さんも当然、短篇ひとつお願いします」
「た、た、短篇って、どんな?」
「アルスラーンの外伝がいいですけど」
私はそのアルスラーンの最新長篇をしあげたばかり。まったく別の世界を書きたかった。脳内書庫をかきまわして、メモを引っぱり出した。
「一〇〇年前の怪奇冒険物にします!」
運命の一瞬(?)であった。
いつもこうならいいのだが、時代背景が決まると、あっというまに主要キャラクターも決まった。変に美化されている英国貴族をおちょくってやりたかったし、階級制度や民族差別の横行についても、娯楽性をそこなわない範囲で記述したかった。かくして、サー・ジョセフと三人の使用人が世に出たのだが、私は彼らに愛着を感じたので、いつか続篇を加えて一冊にしたかった。このたびそれが実現して嬉しい。一七年もかかるとは思わなかったけど。何とぞごひいきに願いあげます。