『「その他の外国文学」の翻訳者』
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マイナー言語の翻訳者が示す多様な学びの道しるべ
[レビュアー] 倉本さおり(書評家、ライター)
私たちは、何かを学びたい、あるいは仕事にしたい、と考えたとき、まずはしかるべき教育機関や教材を探すのが定石だと思っている。言語では例えば英語や仏語、中国語なら、学習の場は十分に用意されているし辞書や参考書も充実している。
だがそれは、あくまで先人たちが踏み固めてくれたからこそ歩める道でもある。仮に自分が学びたいのがノルウェー語やチベット語、マヤ語だったら? ――そもそも「しかるべき」道のりが簡単に見つからないことに気づくはずだ。
本書は「日本では相対的になじみが薄い」――つまり「その他」という言葉で括られがちな言語によって書かれた文学の翻訳者たちにスポットを当て、来歴を紹介する。「その他」ならぬ「その言語」との出会いに始まり、学習方法はもちろん翻訳時の苦労や工夫に至るまで魅力的に語り起こされていく。Web連載当時から注目を浴び、今年2月の発売と同時に重版が決定。3刷となった現在も着々と売れ続けている。「あくまで逆説的な意味を込めてつけたタイトルですが、その意図が読者の方々にちゃんと伝わったようで嬉しいです」と担当編集者は話す。
読書好きにとって白水社は、良質な海外文学の版元のイメージが強いが、実は百年以上の歴史を持つ語学書の老舗という顔もある。
「この二つの分野の蓄積を掛け合わせることで面白い本がつくれるんじゃないかと思って。同僚との雑談から始まった企画でした」(同)
気をつけたのはバランスだ。地域によってなるべく偏りが出ないよう対象言語を選出したうえで、学術書から絵本、映画の字幕まで、幅広いジャンルの翻訳者に目を向けた。
「マイナーな言語であればあるほど、例えば“講師になる”といった一本化されたキャリアでやっていくのは難しい。だからこそ、多様なキャリアがありうるということを、この本に登場する方々の姿を通じて示したかったんです」(同)
言語によって世界の見え方が異なるように、ロールモデルもひとつではない。
「本書のありようが、これから学びたいと思っている皆さんにとって何かの力になれば幸いです」(同)