<東北の本棚>危機管理のもろさ告発

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原発事故 最悪のシナリオ

『原発事故 最悪のシナリオ』

著者
石原 大史 [著]
出版社
NHK出版
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784140818978
発売日
2022/02/18
価格
1,870円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<東北の本棚>危機管理のもろさ告発

[レビュアー] 河北新報

 東日本大震災の津波の直撃を受けて全電源を喪失し、核燃料のメルトダウン、原子炉建屋の水蒸気爆発を起こした東京電力福島第1原発。福島県浜通りを中心に広範囲の放射能汚染を引き起こした。当時の日米政府関係者100人以上への取材を元に、菅直人・民主党政権の事故対応を検証しつつ、日本の危機管理のもろさを明らかにした渾身(こんしん)のノンフィクションだ。NHK・ETV特集で放送された番組内容を軸に、担当ディレクターの著者が書き下ろした。

 2012年1月、不在とされてきた「最悪のシナリオ」の存在が明るみに出た。拡散した放射能によって、首都圏まで人が住めなくなるという「東日本壊滅」のシミュレーションを、政府関係者の依頼で識者が事故後秘密裏に作成していた。菅首相への報告が震災2週間後の11年3月25日だったというスクープを受け、著者はある疑問を持つ。「なぜ、事故から2週間もの時間を要したのか」

 危機管理の常識からしてこの「遅過ぎる」被害想定はどう作られたのか。政府首脳、自衛隊と米軍の最高幹部などへ、綿密な取材が繰り返される。日本の対応に不満を呈した米国との危機意識の差が平易に描かれ、「想定外」という名の人災だった側面が強く浮かび上がる。

 これとは別に、「最悪のシナリオ」は自衛隊も独自に作成していた。ヘリから原子炉建屋への放水など命懸けの作業に当たりながら、政府との情報伝達が滞り、シナリオは顧みられることはなかった。元幹部が怒りをにじませ当時を振り返るインタビューは興味深い。

 「次から次へと厳しい局面が起こり、それを後ろから追いかけるような形で対応していた」(当時の細野豪志首相補佐官)。果たして教訓は生かされているのか。事故検証はまだまだ終わっていないと、本書は訴える。(浅)
   ◇
 NHK出版(0570)009321=1870円。

河北新報
2022年5月22日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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