「右傾化」はひとつの顔を成していない

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徹底検証 日本の右傾化

『徹底検証 日本の右傾化』

著者
塚田 穂高 [著、編集]
出版社
筑摩書房
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784480016492
発売日
2017/03/13
価格
1,980円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

「右傾化」はひとつの顔を成していない

[レビュアー] 倉本さおり(書評家、ライター)

 真上からは円に見えるものでも、横から眺めると四角に映るときがある。事実から“真相”を立ち上げるためには、さまざまな角度から光を当てる必要がある。

 目下7刷と躍進中の『徹底検証 日本の右傾化』。編著者の塚田穂高氏は、戦後日本の宗教運動における政治への関与について、包括的かつ徹底的に分析してきた宗教社会学者だ。「このような仕事をなさる方にぜひ単著を、と思ったのが本書の刊行のきっかけだったのですが、やりとりを重ねるうち、今回は複数人の視点から『右傾化』を検証する論集という形で進めるのはどうかとご提案いただいたんです」(担当編集者)。

 当時は第3次安倍内閣期。改憲を目指す政権のありようを問う声が高まりつつあった時期だ。2017年3月に本書が刊行されると大きな反響を呼び、同年7月までに6刷が決定。その後は落ち着いていたが、今年7月に起きた安倍元首相の銃撃事件を経て、旧統一教会と政治家の関係に歴史的な背景から迫った本書所収の鈴木エイト氏の論考が連日Twitter上で言及されるように。再び本書に注目が集まり五年ぶりの増刷が決定した。

「やがて税制と“伝統的”家族思想の癒着をあぶりだした堀内京子さんや、教育基本法をめぐる根深い問題を追った大内裕和さんら、他の執筆者の論考に対しても“こんなことが起きていたとは!”といった驚きの声が寄せられるようになりました。いわゆる『左派』ではない読者のもとにも届くようになった印象です」(同)

 類書との相違点は多様性と複層性だ。ジェンダーや家族、教育といったテーマを含め、多面的に「右傾化」という現象を検証せんとする21章立ての本書は、不正にぐいぐい分け入るような熱いドキュメントもあれば、各種データに基づいた客観的な分析もある。本書が浮かびあがらせる「右傾化」は、アイコンとして把握できるような、ひとつの顔を成していない。

「論考間で無理に意見を擦り合わせなくていい、というのも基本方針のひとつでした。結果的にその姿勢が、より多くの人びとにとって“考える余地”となったのかもしれません」(同)

新潮社 週刊新潮
2022年10月6日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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