『いのちの海と暮らす』
- 著者
- 川島秀一 [著]
- 出版社
- 冨山房インターナショナル
- ジャンル
- 社会科学/民族・風習
- ISBN
- 9784866000411
- 発売日
- 2022/07/25
- 価格
- 1,980円(税込)
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<東北の本棚>多様な視点 沿岸漁に光
[レビュアー] 河北新報
漁村の歴史そのものを体現するような漁師に話を聞いたり、北海道・東北の沿岸捕鯨の歴史を調査したり。本書は、民俗研究者の著者が多様な視点で、沿岸漁業をなりわいとしてきた人々の生活を追った記録だ。中でも第2章「漁師が書く海」の中の「村上清太郎翁(おきな)の漁業記録」は、およそ40年前に出会った老漁師が書き記したノートを活字化した仕事で、漁業民俗研究をライフワークとしてきた著者ならではの業績と言える。
カツオの一本釣りなどに従事した村上さんは1893年生まれ。動力船以前の和船時代のカツオ漁を知る最後の漁師だった。著者は1983年頃に実施した民謡調査の過程で、当時90歳だった村上さんと出会った。ノートを見せてもらい、眼前で文面を読み上げ、理解できない部分を質問し、資料的価値を高めた。
山を目印とする「山バカリ」や網漁の形態と方法など、漁をするためのノウハウが具体的に記され漁業文化の記録という点からも貴重な内容となっている。「満船でエンヤー、エンヤーという掛け声で港に漕(こ)ぎ入れ込むのは、なんともいわれぬ嬉(うれ)しいものであって、寒風の中の辛苦もペロリと忘れて」といった描写は、和船時代の漁師たちの息遣いを感じさせてくれる。
著者が付ける注釈も興味深い。「メダカは、海面を木の葉を流したように浮いて」というノートの記述では当初、「メダカ」とはどんな魚種か、正式名称が不明だった。著者は2018年に福島県新地町で始めた漁船乗組員の経験から、メダカはメイタガレイだと確信、今回の編集で新たに注釈を加えたという。
本書は全5章。秋田県八森町(現八峰町)のメバル一本釣りの老漁師らの聞き書きや、汽水域と沿岸漁をテーマにした調査結果なども記されている。
(安)
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冨山房インターナショナル03(3291)2578=1980円。