『世界史の中のヤバい女たち』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
「自分の意志を持ちたい」と願った女性たちの闘い
[レビュアー] 佐藤健太郎(サイエンスライター)
歴史書というジャンルの中でも、世界史を揺り動かした女傑や悪女たちの本というのは、最近あまり見かけなくなっていた。そんな中、久々に登場したのが黒澤はゆま『世界史の中のヤバい女たち』だ。ジャンヌ・ダルクやナイチンゲールといった偉人伝の常連も取り上げられているが、アステカ王国を滅亡に追いやった女通訳マリンチェ、女性であることを隠して競馬の騎手となった斉藤すみとウィルヘルミーナ・スミスなど、あまりこれまで世間に知られていなかった人物も登場する。
中でも、一六世紀のアフリカで強大なポルトガルの支配と戦い抜いた女王ンジンガの物語は、本書の白眉といえようか。その波乱に満ちた生涯と、強烈としかいいようのない個性を見せられると、我々の歴史観がいかに欧米や中国に偏ったものか思い知らされる。
本書の主人公たちに共通するのは、「自分の意志を持ちたい」と願った女性たちであること。読み始めた当初は少々鼻につく感も受けたが、読み進めるうちにガラスどころか鋼鉄の天井をぶち抜くべくあがいたヒロインたちの闘いぶりに拍手を送りたくなってくる。
現在進行形で歴史が沸騰している現場である、ロシアとウクライナの女性たちも取り上げられている。戦場においても優しさを発揮したロシア女性と、激烈な復讐を成し遂げたウクライナ女性の対比が鮮やかだ。この戦争が終わってから読み返すと、また違う感想を抱くことだろう。