<書評>『毒の水 PFAS(ピーファス)汚染に立ち向かったある弁護士の20年』ロバート・ビロット 著

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毒の水

『毒の水』

著者
ロバート・ビロット [著]/旦 祐介 [訳]
出版社
花伝社
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784763420565
発売日
2023/04/06
価格
2,750円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<書評>『毒の水 PFAS(ピーファス)汚染に立ち向かったある弁護士の20年』ロバート・ビロット 著

[レビュアー] 近藤雄生(ライター)

◆有害性の事実暴く戦い

 最近、全国各地の河川などから、基準より高濃度の有機フッ素化合物(PFAS)が相次いで検出されている。PFASは自然界ではほとんど分解されることがない上に、体内に蓄積すると健康に重大な影響を及ぼす可能性がある。そのため近年、世界各地で急速に規制が進んでいるが、問題が始まったのは決して最近のことではない。

 発端は一九九〇年代、アメリカの一つの農場で家畜が次々に死んでいったことである。その原因が付近の川の水の汚染にあると確信した農場主は、近隣の工場から川に何らかの有毒物質が流れ込んでいるに違いないと考えて、訴えを起こした。それが全ての始まりとなった。

 本書は、その農場主の言う物質がPFASであることを突き止めた弁護士ロバート・ビロットが、問題の責任を負うべき巨大企業と二十年にわたって戦い続けた自伝的記録である。

 その巨大企業・デュポンは、八〇年代にはすでに、PFASが人間に深刻な害を与えうることに気づいていたが、自社の利益を優先させ、問題の物質を使い続けた。

 著者はその事実を、気の遠くなるような膨大な調査によって暴き出す。ただし法的な責任を問うための壁は高く、数々の困難が立ちはだかる。それでも著者はあきらめることなく追及を続け、巻き込まれた人たちを救うべく、力を尽くし続けるのである。

 本書には、著者とデュポンとの争いの経過が緻密に記されているが、同時に著者は、不条理な相手への怒りを率直に吐露し、巨大企業に翻弄(ほんろう)される人たちへ寄せる思いも丁寧に描く。時に現実の冷酷さに啞然(あぜん)とするが、著者のその情熱と執念が決して徒労に終わらないことは、評者自身、勇気をもらい、背中を押された気持ちにもなった。

 ビロットが途中で戦いをあきらめていたら、PFASの危険性はさらに長い間、知られないままだったかもしれない。いまと密接に繫(つな)がる記録として、そして、信念を持った人間のドラマとして、本書は広く読まれてほしい。

(旦(だん)祐介訳、花伝社・2750円)

米国の弁護士。PFAS曝露(ばくろ)被害訴訟の第一人者。

◆もう1冊

『永遠の化学物質(フォーエバー・ケミカル) 水のPFAS汚染』ジョン・ミッチェル著、小泉昭夫ほか訳(岩波書店) 

中日新聞 東京新聞
2023年7月2日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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