雑誌、出版、新聞……天才、名人、職人への敬意とプラットフォームの変貌

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雑誌、出版、新聞……天才、名人、職人への敬意とプラットフォームの変貌

[レビュアー] 佐久間文子(文芸ジャーナリスト)

「わがエディトリアル・デザイン史」と副題のついた堀内誠一『父の時代・私の時代』がちくま文庫に入った。南伸坊さんの『私のイラストレーション史』が文庫になっていれば、あわせてこの欄で紹介できるのに、と思っていたところ、6月に同じちくま文庫に入った。

「anan」創刊を手がけたグラフィックデザイナーで、すぐれた絵本作家でもあった堀内が「父の時代」から書き起こすのは、父治雄が図案家で、父や父の周辺にいた人たちから影響を受けて堀内誠一の個性はできあがったからだ。

 父を手伝いながら仕事を覚えた堀内は、十四歳で伊勢丹に入社しデザイナーのキャリアをスタートさせている。名取洋之助や瀬田貞二といったすぐれた先達と出会うなかで、仕事の本質というべきさまざまなものを吸収していく。

 絵本の仕事をする福音館について、ツブれるかツブれないかで言えば「大丈夫の方を感じ」たと書く堀内自身による注も、出版文化史的にたいへん興味深い。

『私のイラストレーション史』は、堀内が働き始めたのと同年齢でグラフィックデザイナーを志した南さんが、高校・大学・就職試験に失敗し、そのたびに、会いたかった人に近づいていくめぐりあわせで、人生はつくづく不思議だ。

 本の根底に自分が面白いと感じるものをつくってきた人への敬意と感謝がある。なかでも和田誠のすごさがデザインの門外漢にも伝わるように書かれている。この本で私は、「話の特集」が雑誌デザインにもたらしたものの大きさを知った。

 下山進さんの『2050年のメディア』(文春文庫)は、『勝負の分かれ目』(角川文庫)でインターネット以前のメディアの変貌を描いた著者が、ネット以後の、新聞と、新時代のプラットフォーマー、ヤフー・ジャパンとの闘いを追う。

 勝負に負ける側代表の新聞社で私は働いていたので、なんとなく見聞きしていたできごとの歴史的な意味を教えられ、悲しい気持ちにもなった。まだ動いている現実がピンで止められ、歴史化されていくのに立ち会うかのようだった。

新潮社 週刊新潮
2023年7月20日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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