『都会の鳥の生態学』
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<書評>『都会の鳥の生態学』唐沢孝一 著
◆「お目こぼし」が命育む
半世紀以上にわたり都会人と都市鳥(としちょう)の生活を観察してきた著者が、両者の関係から世界を紐(ひも)解く。生態学の垣根を越え、様々(さまざま)な角度から未来を照らす。「ピーチョイチョピーチョ、ツツピーコー」(イソヒヨドリ)など独特の擬声語も魅力だ。
興味深いのは透徹した鳥側の視点だ。都市の「優良物件」に営巣し、人をガードマン代わりにして子育てするツバメ。人間もまた鳥から観察され、利用されている。私たちが驕(おご)りを自覚し、謙虚にならざるを得ないポイントが随所にある。
「お目こぼし」も重要なワードだ。スズメが生き延びられるのは、除草しきれなかった雑草、修理されなかった飲水器の漏水など、人の「お目こぼし」によるところが大きいという。完璧ではないところがかえって他者を救っている。利害関係だけでは説明しきれない、両者を結ぶ愛のようなものも仄(ほの)見える。
今の不寛容社会の問題点が鋭く暴かれている。まあいいかと軽く流して微笑(ほほえ)んでみたい。今よりも生きやすい世の中が見えてくるはずだ。
(中公新書・1155円)
1943年生まれ。NPO法人自然観察大学学長。
◆もう一冊
『カラー版 身近な鳥のすごい食生活』唐沢孝一著(イースト新書Q)