コリアン一家の流転の人生 四世代にわたるクロニクルは先が気になって没入確実

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク
  • パチンコ 上
  • パチンコ 下
  • 朝鮮大学校物語

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

コリアン一家の流転の人生 四世代にわたるクロニクルは先が気になって没入確実

[レビュアー] 北村浩子(フリーアナウンサー・ライター)

〈歴史が私たちを見捨てようと、関係ない〉

 決然とした最初の一行。韓国系アメリカ人作家、ミン・ジン・リー『パチンコ』(池田真紀子訳)は、コリアン一家の四世代にわたるクロニクルだ。日韓併合条約が締結された年、1910年の釜山から、壮大なドラマが幕を開ける。

 起点人物となるのは、母と二人で下宿屋をきりもりするソンジャ。十代半ばの彼女は市場で〈優雅な鳥のよう〉な仲買人ハンスに出会う。兄を慕うような気持ちはたやすく恋心に変わり、やがて妊娠。しかしハンスは既婚者だった。

 絶望するソンジャに、牧師のイサクが手を差し伸べる。彼女は身ごもったまま彼と大阪に渡り、朝鮮人街の猪飼野に住むイサクの兄夫婦の元に身を寄せる。韓服を着て少し離れた場所へ行くとあからさまに蔑みの視線を向けられる日本で、彼女は長男のノアを出産。やがて次男のモーザスが生まれ、義姉と商売も始めるが、関係を断ち切ったはずのハンスが再びソンジャの前にあらわれて―。

 ノア、モーザス、彼らからつながる人々の流転の人生が気になって、途中で本を閉じることができない。ダイナミックな物語の屋台骨となっているのは、在日コリアンに関する長年の綿密な取材だ。評者は、老年のソンジャにふりかかる出来事のあまりの悲しさに、フィクションであると分かりつつ思わず「どうして……」とつぶやいてしまった。没入確実の一作だ。

 1983年、進学のために大阪から上京した在日二世のミヨンが主人公の『朝鮮大学校物語』(角川文庫)は、映画監督である著者ヤン ヨンヒの経験も投影された青春もの。日本語禁止、雑誌は没収など全寮制の厳しい規則に悩まされながら、東京で思う存分映画や演劇を見ようとミヨンは積極的に外へ出る。

〈ミヨンが在日だとか朝鮮人だとか、そういうこと気にしてないから〉。彼女がある男性から言われる場面が強く印象に残る。言葉は心の態度であり、無意識の排除を映し出してしまうのだと思わずにはいられない。

新潮社 週刊新潮
2023年8月10日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク