<書評>『二十世紀のクラシック音楽を取り戻す 三度の戦争は音楽に何をしたか』ジョン・マウチェリ 著
[レビュアー] 根井雅弘(京都大教授)
◆埋もれたレパートリー
著者は前作『指揮者は何を考えているか』(白水社)でオーケストラの舞台裏を興味深く紹介してくれたが、本書はうってかわって、複雑な事情で埋もれた「現代音楽」を掘り起こすという真面目な取り組みについて語っている。
第二次世界大戦期、第三帝国のドイツやオーストリアから追い出された四人の優秀な作曲家たち(シェーンベルク、コルンゴルト、ヒンデミット、ヴァイル)は、現代の演奏会でもそう頻繁に演奏されるわけではない。聴衆はもっと古い時代のモーツァルト、ベートーベン、ブラームスなどを聴きたがるからだ。だが、有名なブロードウェイ・ミュージカル『ラ・マンチャの男』を作曲したのはミッチ・リーで、彼が自分の成功はヒンデミットのおかげだと言っていることをどう解釈すべきか。ある映画制作の音楽監督は、もしワーグナーが現代に生きていたら、優れた映画音楽家になっただろうと言っているという。クラシックのレパートリーを再考しようという意欲作である。
(松村哲哉訳、白水社・4180円)
1945年、米ニューヨーク生まれ。指揮者。
◆もう一冊
『武満徹 ある作曲家の肖像』小野光子著(音楽之友社)