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夏はやっぱりホラー 奇想天外設定×驚愕展開なゴーストストーリーを
[レビュアー] 豊崎由美(書評家・ライター)
17世紀、ピューリタン革命で騒然とする英国を舞台にしたフランシス・ハーディングの『影を吞んだ少女』(児玉敦子訳)は、奇想天外な設定と驚きに満ちた展開が魅力の物語です。
霊を引き入れるという異能を持つ少女メイクピースが、母の死後、大きなクマの霊に取り憑かれてしまって以降の展開は「!」の連続。父方の一族フェルモット家に引き取られたメイクピースは、そこで異母兄ジェイムズと出会います。異能の一族には忌むべき因習があり、そのことに利用できるがゆえに自分たちが屋敷に閉じ込められていることを理解した2人は―。数年間を一緒に過ごすうちに大事な仲間となったクマの霊と共に、メイクピースが内乱の時代をどうやってサバイブし、フェルモット家とどう対峙していくのか。少女の成長小説として、異色のゴーストストーリーとして、臨場感溢れる歴史小説として、読みごたえたっぷりな長篇小説なのです。
そう、夏はやっぱりホラー。英国怪奇小説の黄金期を代表する作家、H・R・ウェイクフィールドの傑作選『ゴースト・ハント』(鈴木克昌他訳、創元推理文庫)をどうぞ。30人もの自殺者を出している屋敷に、深夜、霊能者と共に乗り込んだラジオ番組のリポーターが、異様な体験を聴取者に向かって語りかけるという臨場感あふれる筆致で描いてゾッとする表題作をはじめ、18篇を収録。色んなタイプの恐怖が楽しめるバラエティに富んだ短篇集になっています。
日本からは舞城王太郎の『淵の王』(新潮文庫)を激推し! デビュー以来、悪しき何かに敢然と立ち向かう誰かを描き続けてきた舞城が、今回ターゲットにしているのは〈闇より暗い深黒の、何でも無い、形も無い暗黒の穴〉。基本、「もう一生、屋根裏部屋や納戸には行きません!」となるような恐怖小説で、死体のマトリョーシカなんて残酷な代物まで出てくるんだけど、最終的には泣けてきちゃうのがキモ。凝った語りの構造ながら頭でっかちには堕さず、感情レベルで読者をぐいぐい引きこんでいく物語になっている超おすすめ新感覚ホラーです。
【訂正について】
『週刊新潮』32号(2023年8月31日秋初月増大号)の書評ページ「読書万巻」文庫欄・豊崎由美氏の書評で編集部の校正ミスがありました。本サイトに掲載した書評が評者の意図を反映した内容です。