『戦後日本政治史 占領期から「ネオ55年体制」まで』境家史郎著(中公新書)

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戦後日本政治史

『戦後日本政治史』

著者
境家史郎 [著]
出版社
中央公論新社
ジャンル
社会科学/政治-含む国防軍事
ISBN
9784121027528
発売日
2023/05/24
価格
1,056円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『戦後日本政治史 占領期から「ネオ55年体制」まで』境家史郎著(中公新書)

[レビュアー] 橋本五郎(読売新聞特別編集委員)

9条対立 終わらぬ「戦後」

 名著『近代日本政治史I』を著した東大教授岡義武は、生前ついに2以下を公刊することが叶(かな)わなかった。愛(まな)弟子三谷太一郎は、資料の混沌(こんとん)と研究の累積に挑みながら、あくまでも古典主義的な簡潔と均斉を求めようとする努力が心身に過重な負担を強い、その事業を蹉跌(さてつ)させたのかも知れないと愛惜を込めて解説した。

 通史を描き切るとはかくも難しいのである。戦後日本の政治を総覧するのも同様だろうが、著者の視点と分析は明快である。日本政治の現在地点を知るためには、戦後政治史全体の俯瞰(ふかん)が必要であり、俯瞰すれば何が見えるか。戦後政治が「戦後憲法体制」ともいうべきものに強く規定されているのが浮かび上がってくる。

 憲法9条と現実の防衛政策の整合性が争点になることで、保守政党は政権担当能力イメージを独占するだけでなく、中道から左派までの野党の分断が可能になった。一方、護憲派野党は過半数の獲得ではなく、改憲を阻止するための「3分の1」議席確保が至上命令となった。9条の存在が、逆説的にも自民党の一党優位体制(55年体制)を支えてきたのである。

 今日の政治状況を著者は「ネオ55年体制」と呼ぶ。圧倒的に強い右派自民党が政権を取り続け、それと対峙(たいじ)する社会党/立憲民主党が左派路線に傾斜しているのは今も昔も変わらない。それだけ「戦後憲法体制」が日本政治に組み込まれているのである。「憲法(問題)の呪縛」とでもいう状況に著者は悲観的である。

 「憲法改正という争点を『軍国主義か民主主義か』というイデオロギー的問題として捉える枠組みから日本人が解放されない限り、この国の『戦後』が終わることはないだろう」

 書評では戦後政治の大きな枠組み論に多くを費やした。しかし、本書の本領は、戦後の歴代政権に対する評価にもある。極めて公平で均斉の取れた叙述になっており、政治のダイナミズムも十分に堪能させてくれるからである。

読売新聞
2023年8月25日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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