『日本語人生百景』中村明著
[レビュアー] 産経新聞社
日本語学の第一人者である著者が作家96人の随筆を丁寧に読み、名表現を作家別にまとめた。
著者が「ぷっと吹き出すことはないが、にんまりすることはよくある」と評する向田邦子の随筆からは、告別式の寺に魚を焼く匂いがただよう風景を描いた一文を取り上げた。保管していた師匠・夏目漱石の鼻毛を焼夷弾(しょういだん)に焼かれた内田百閒(ひゃっけん)の逸話を、日本文学にとって取り返しのつかない痛恨事と記す。もとの随筆が読みたくなる仕掛けだ。
著者と対談したことがある尾崎一雄や永井龍男には紙幅を割き、名手こだわりの表現テクニックを探っている。(青土社・2640円)