『こんな感じで書いてます』
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物書き業40年の極意 『こんな感じで書いてます』群ようこ著
[レビュアー] 伊藤洋一(エコノミスト)
ロングセラー「無印物語」シリーズや映画のために書き下ろした小説『かもめ食堂』など、140冊を超える著作を送り出した40年間の物書き人生をざっくばらんに振り返った。格好つけるのを好まないようだ。
デビュー当初、読者から「本を出すレベルではない」という趣旨の手紙が何通も来たこと。母と弟が建てた実家のローンを背負わされたこと。本が売れたことを妬んで無視する出版関係者がいたこと。はたから見れば気の毒に思えることも、「すべての経験がネタに結びつく」と言い切る潔さは、爽快感さえある。
よく聞かれることとして、「書くネタはどう探すか」という質問を挙げた。答えは「ネタは見つけようとするのではなく、向こうからやってきたものをキャッチするもの」。何事もできるだけ自分ごととして面白がり、気になったことはその都度メモに残す。
誰しも興味があることには反応するが、そうでないことは見逃してしまう傾向は覚えがあるのではないか。作家に限らず、生活する上で役に立ちそうなヒントがちりばめられている。
月刊小説誌に連載したものをまとめたため、その時々のエピソードが交じる。作家を目指す大学生らへの講義では、ハズレを引きたくないからとベストセラー作品しか読まないという学生の効率重視の考え方に対し、無駄なことをしてきた人が書くもののほうが面白いと指導した。そこには、自身の経験が色濃く反映されている。
大学卒業後、短期間に職を転々とした著者は、5つめの会社である「本の雑誌社」への入社が大きな転機になった。ペンネームを考案してくれた当時の社長で、著名な編集者の目黒考二氏が今年初めに急死。尊敬の念をずっと忘れず、本書にも思い出と感謝の言葉をつづった。そして、自らのやっていることは「すきま産業。気分がいまひとつの人が明るくなってくれればいい」と記す。謙虚で、格好いい人だ。(新潮社・1540円)
評・伊藤洋一(文化部)