原作も読んでほしい!映画化された〈バカ面白い〉傑作を紹介

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原作も読んでほしい!映画化された〈バカ面白い〉傑作を紹介

[レビュアー] 豊崎由美(書評家・ライター)

 1911年に亡くなったドクターの若き日の体験を綴った手記。それを小説家の〈わたし〉が序文と注をつけて出版した。そんな偽書もののスタイルを取っているのがアラスター・グレイ『哀れなるものたち』(高橋和久訳)なのだけれど、そのマッキャンドルスなる医学博士が書いた手記の内容がバカ面白いんである。

 物語は医学生マッキャンドルスが、異端にして異形の天才バクスターの知己を得るところから始まる。やがて、彼が知るバクスターの偉業。それは、亡くなった若い女性に彼女が宿していた胎児の脳を移植して蘇生させたこと。成熟した肉体と無垢な精神を持つ、ベラと名づけられた女性に魅了されるマッキャンドルスをはじめとする男たち。しかし、ベラは広い世間へと飛び出していき―。

 メアリー・シェリーの『フランケンシュタイン』とリラダンの『未来のイヴ』の魅力を併せ持ち、奇想と知的な仕掛けの歯車がぴったり噛み合った、この伝説の奇書が文庫復刊されたのは、映像化された作品がヴェネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞したおかげ。というわけで、今回は映画化された傑作を紹介したい。

 まずは、ジョー・ライト監督が映画化した(邦題は『つぐない』)、イアン・マキューアン『贖罪』(小山太一訳、新潮文庫)。一人の少女がついたたったひとつの嘘が、若いカップルの人生を狂わせていく。この3人の人生を、1935年から99年までの長い時間をかけて描く中、罪と贖罪と愛、その真実を浮かび上がらせる大河小説。わたしは多々あるマキューアン作品の中で随一と思っています。

 サラ・ウォーターズ『荊の城』(中村有希訳、創元推理文庫、上下巻)を映画化したのは、パク・チャヌク監督(邦題は『お嬢さん』)。舞台をヴィクトリア朝時代のロンドンから1930年代の韓国に移し替え、原作に漂うレズビアニズムを濃厚に描いて話題になりました。でも、物語の根幹をなすコン・ゲームの要素は、原作のほうがよりスリリング。『贖罪』もそうだけど、映画ファンには原作も是非読んでほしいです。

新潮社 週刊新潮
2023年10月19日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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