『昭和ブギウギ』
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『昭和ブギウギ 笠置シヅ子と服部良一のリズム音曲』輪島裕介著
[レビュアー] 金子拓(歴史学者・東京大教授)
大阪が育んだ陽気な曲
先日から放送が始まった今年度下半期のNHK連続テレビ小説(朝ドラ)「ブギウギ」の主人公のモデルは、「ブギの女王」として敗戦後の日本社会を元気づけた笠置シヅ子である。
彼女の唄(うた)う曲を多く手がけた音楽家・服部良一ともども、関連書籍が書店の目立つ場所に並んでいる。笠置や服部の人となりを知りたければ、二人の自伝や評伝を読めば事足りる。そこからもう一歩踏みこんで、笠置・服部の生み出した音楽が近代日本の音楽文化のなかでどのような位置にあるのかを深く知りたいという読者にとって、本書はきっと満足するものとなるだろう。服部の自筆楽譜や雑誌記事なども博捜して書かれた本書は、すこぶる濃密にして本格的であり、読みごたえがある。
また、かなり野心的な意図により二人の音楽を評価しようと試みている。東京中心の文化史観、洋楽受容史として近代日本音楽史を捉えること、大衆音楽史をレコード(流行歌)中心に捉えることなどへの挑戦だというのである。
関東大震災後に東京から大阪へ人と富と文化の移動が起こり、大阪でジャズが興隆し、服部はその渦中にいたこと、二人の音楽は、大阪の劇場で公演されるという上演文化のなかで育まれてきたこと、笠置は西洋音楽の発声法から外れた地声で唄ったこと、大阪に根づく浪花節や河内音頭の節を変奏する、ジャズに通じる口承性・即興性に西洋音楽の和声を組み合わせたことなど、熱のこもった文章で語られる。
そもそもブギウギとは何か。これはお読みになっていただくとして、本書で二人の楽曲を「リズム音曲」と名づけていることのほうに注目したい。戦前の頂点となる曲が「ラッパと娘」だが、それに大阪在来の語り口などが加味された戦後の傑作が「買物ブギー」で、これぞリズム音曲だという。陽気なリズムに乗った語りのごとき笠置の唄は、聴く者の心を不思議に浮き立たせる。ドラマでどう再現されるか楽しみだ。(NHK出版新書、1078円)