妊婦さんは観ないで…!グロくも凄惨でもないのに一級品のホラー作品「ローズマリーの赤ちゃん」

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

ローズマリーの赤ちゃん

『ローズマリーの赤ちゃん』

著者
アイラ・レヴィン [著]/高橋泰邦 [訳]
出版社
早川書房
ISBN
9784150400064
発売日
1972/01/01
価格
598円(税込)

凄惨でもグロテスクでもない なのに“怖さ一級品”の超傑作

[レビュアー] 吉川美代子(アナウンサー・京都産業大学客員教授)

 血まみれの惨殺場面や悪魔も怨霊も一切画面に登場しない。それでもジワジワと恐怖が迫ってくる。ホラー映画の傑作中の傑作、ロマン・ポランスキー監督の『ローズマリーの赤ちゃん』である。

 原作者は、このコラムで以前取り上げた『ブラジルから来た少年』のアイラ・レヴィン。『ブラジルから来た少年』の9年前、’67 年に発表された本書は、悪魔崇拝がテーマという衝撃的な内容で大ベストセラーになった。同年、日本でもハヤカワ・ノヴェルズから出版。母が夢中になって読んでいたが、怖がり屋の私は本に触れることさえ出来なかった。映画の日本公開はその2年後。中学2年生だった私は、悪魔が出てきたらどうしようかとドキドキしながら観た。社会人になって原作を読んだが、ストーリーを知っていても、鬼才レヴィンの巧みな構成と筆致に読み始めたら止まらない。原作もホラー小説の歴史に残る傑作なのだ。

 NYの古く壮麗なアパートメント(映画での外観はジョン・レノンとオノ・ヨーコが住んでいたことで有名なダコタ・ハウス)に越してきたローズマリーと売れない俳優の夫。呪われた過去があると噂されるアパートだったが、隣人は親切でちょっとお節介な老夫婦。新居での幸せな日々が始まる。やがて彼女は妊娠し、喜びに包まれる。映画でローズマリーを演じるのはミア・ファロー。ピクシー・カットと呼ばれるショートヘアと可愛らしいマタニティウェアがその中性的魅力を引き立てる。絶え間ない激痛に襲われて痩せ細り、目の下のクマが濃くなっていく姿は、ミア一世一代の名演と言えるだろう。悪魔崇拝者の存在に気付くローズマリーだが、それは妊娠で神経過敏になった彼女の思い込みなのか、それとも現実のことなのか。追い詰められたローズマリーにいよいよ出産の時が……。

 恐ろしいものを見せないのに心底恐ろしいこの映画は高い評価を得て、70年代の『エクソシスト』などオカルト映画ブームの先駆的作品となった。『ローズマリーの赤ちゃん』を観ずしてホラー映画は語るな!です。ただし、妊娠している方にはお勧めしません。

新潮社 週刊新潮
2023年11月9日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク