淡い悔恨を抱きつつ人生を生きていく――〈メグレ警視シリーズ復刊〉の愉しみ方

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メグレと若い女の死〔新訳版〕

『メグレと若い女の死〔新訳版〕』

著者
ジョルジュ・シムノン [著]/平岡 敦 [訳]
出版社
早川書房
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784150709532
発売日
2023/02/21
価格
1,122円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

メグレとマジェスティック・ホテルの地階〔新訳版〕

『メグレとマジェスティック・ホテルの地階〔新訳版〕』

著者
ジョルジュ・シムノン [著]/高野 優 [訳]
出版社
早川書房
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784150709556
発売日
2023/10/04
価格
1,298円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

淡い悔恨を抱きつつ人生を生きていく――〈メグレ警視シリーズ復刊〉の愉しみ方

[レビュアー] 縄田一男(文芸評論家)

 今年の三月に日本で公開されたパトリス・ルコント監督、ジェラール・ドパルデュー主演の映画の評判が良かったのか、原作となった『メグレと若い女の死』の新訳版(平岡敦訳、ハヤカワ・ミステリ文庫)が刊行されて以来、『サン=フォリアン教会の首吊り男』(伊礼規与美訳、ハヤカワ・ミステリ文庫)や『メグレとマジェスティック・ホテルの地階』(高野優訳)の新訳版が続々と刊行された。

 このジョルジュ・シムノンの三冊の中で一番嬉しいのは『メグレとマジェスティック・ホテルの地階』だろう。何しろこの作品の邦訳は探偵小説専門誌の「EQ」に一挙掲載されたまま、独立した本としては刊行されていなかったからだ。

 おまけに本作には、ラストでメグレが名探偵よろしく―実際、名探偵なのだが―「さて、皆さん、お集まりかな?」と関係者を集めて謎解きを始めるシーンがある。メグレものとしては珍しい場面であると言えよう。

 今回訳出された三冊は『サン=フォリアン教会の首吊り男』が初期、『メグレとマジェスティック・ホテルの地階』が中期、『メグレと若い女の死』が後期というように、それぞれの時代を代表するような特徴にあふれている。

 ただし、被害者の人生をメグレが理解した時に事件が解決するという公式は初期作品から貫かれている。

 メグレものを読む楽しさは、どこかで助けることの出来た人の人生に思いを馳せることであり、人間は淡い悔恨を抱きつつ生きているのだ、ということを確認することであろう。

 実際、警察官が事件の関係者のことをずっと覚えていることはできないわけで、メグレが心の抽斗に彼らのことをしまっておいて、時折思い出すのは一つのロマンであると言っていい。

 三冊は異なる頃合いの事件を描いており、一ページ目からサスペンスが濃厚な『サン=フォリアン教会の首吊り男』から最新作まで、時代は変わるが、メグレだけは変わらない。

 これからも、新訳版をどしどし出していってほしい。メグレは変わらないものの象徴としてここにある。

新潮社 週刊新潮
2023年12月28日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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