【児童書】『わたしのやま』
[レビュアー] 黒沢綾子
■相手の立場で考える
人はそれぞれの立場で、自分が見たいようにしか見ない。そして歴史とは多くの場合、勝者によって語られる。
フランス発の本書は、表と裏の両表紙から読める仕掛け。表から読むと、羊飼いの視点で語られる山の世界で、裏から読むと、狼の視点が捉えた山の世界。面白いことに、どちらから読んでも一言一句、同じ。だけど、浮かび上がる景色はかなり違って見える。シンプルかつ奥深い文章と、趣のある絵のおかげだろう。
羊飼いと狼の利害は相反している。それでも両者は先祖代々この山で暮らし、山の美しさを愛してきた。
「《いのち》の眼で見れば、人間も狼も立場は同じ」
訳を手掛けた詩人の谷川俊太郎さんは、こう言葉を寄せている。
敵か味方か、善か悪か。単純な色分けでは、この複雑な世界を生き抜くことは難しい。相手の立場で考えてみる大切さを教えてくれる。(フランソワ・オビノ作、ジェローム・ペラ絵、谷川俊太郎訳/世界文化社・1400円+税)
黒沢綾子