『鬼才 五社英雄の生涯』
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ハッタリ上等、虚々実々のエンターテイナー『鬼才 五社英雄の生涯』春日太一
[レビュアー] 縄田一男(文芸評論家)
本書は、TVと映画の世界を股にかけて活躍したアウトロー・五社英雄の生涯を追ったはじめての評伝である。
五社の父親は下町で用心棒稼業をしていた。五社英雄はこの父親のアウトロー気質を、受け継いでいる。従って、彼の作品の主人公たちに、いわゆるカタギはいない。
たとえば、はじめて、人を斬る効果音を入れて話題となったTV時代劇『三匹の侍』――その主人公たちは、飢えてギラギラした眼をし、世の中の矛盾の中で剣をふるった。そして、アウトローというものは、肩で風を切っていながらも、常に哀しみにまみれているものである。『三匹の侍』が放映されたのは、ちょうど高度経済成長の真っ只中。にもかかわらず、扱われるのは、百姓の水争いや娘の身売り。
著者は、このことを「見終えるといつもどこか寂寥感が漂う」と話しているが、もっと俗にいえば、それはやり切れなさであり、五社は高度経済成長などといっても、日本に差別や貧困がなくなったという国家の偽装である、といいたかったのではないか。
やがて斜陽化する映画界の方が五社を、そして五社がいる体制=フジテレビを放っておけなくなる。A・マクリーン張りの『御用金』や三島由紀夫までもが狂気の演技をする『人斬り』――これらの大作を観るにつけ、私はこと時代劇に関する限り、黒澤明、工藤栄一、五社英雄は、横並び一線で良いのではないかと思う。
そして、『鬼龍院花子の生涯』にはじまる一連の女性作品――。だが五社は、お偉い映画ジャーナリズムからは無視され続けた。
それを思う時、五社への愛情を客観化し続けた著者の心は泣き濡れていたに違いない。