子どもを全力で守るために【自著を語る】

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告発 児童相談所が子供を殺す

『告発 児童相談所が子供を殺す』

著者
山脇 由貴子 [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784166610907
発売日
2016/09/21
価格
858円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

子どもを全力で守るために【自著を語る】

[レビュアー] 山脇由貴子

 二十歳を過ぎた彼女は、すっかり大人になり、自立していた。「すごく幸せです」と笑い、私を見て「懐かしい」「会いたかった」と繰り返してくれた。敵対して終わったことをずっと気にしていたけれど、彼女の中で、児童相談所が関わったことに意味があったと思えたことは本当に幸せに感じられた。元気に生きていてくれればそれで十分だ。

 しかし、児童相談所で働いている人間は、何故か子どもに厳しい。中卒で新聞配達の仕事を始め、一週間で辞めてしまった子に対して児童相談所の人間は、

「一週間で辞めるなんて、根気がない」

 と多くの大人のように叱る。児童相談所に来なければならないような、事情を抱えた子なのだ。続かなくても仕方がない。私は言っていた。

「一週間働けたなんて偉い!」

「次は十日間を目標に頑張ろう!」

 子どもと過ごす時間は最高に幸せだ。その時間を楽しめなければ、児童相談所で働くことは苦痛でしかないだろう。

 学校でも、一時保護所でも問題児として扱われ続けていた中学生の男の子は知能検査の問題の中の、

「小さい子が喧嘩をしかけて来たらどうする?」

 という質問に対して、

「いい子、いい子して、『あっち行ってな』って言う」

 と答えた。こんな、優しさにあふれた回答を聞いたのは初めてだった。この回答こそ、彼の本質なのだ。

 ある小学生の男の子は、やはり知能検査で、

「隣の部屋の窓から、黒い煙がもくもく出ているのを見つけたらどうする?」

 という質問に、

「火事だったら、一一九番する。魚を焼いていたら、においをかいで、ご飯を食べる!」

 と元気よく答えた。私が大爆笑していると、

「知らないんですか? ウナギのにおいなんて絶品ですよ、絶品!」

 と説明してくれた。笑い話だけれど、それは彼がいつもお腹を空かせていたことを意味していた。魚を焼くにおいでご飯を食べるほどに。

文藝春秋BOOKS
2016年12月21日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

文藝春秋

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