『深読み! 絵本『せいめいのれきし』』
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恐竜博士による生命史の解説
[レビュアー] 稲垣真澄(評論家)
バージニア・リー・バートン文・絵、いしいももこ訳の絵本『せいめいのれきし』は、1964年の刊行以来(原著は62年)、多くの少年少女たちの夢をかき立ててきた。アメリカ自然史博物館に8年間通ってデッサンしたという恐竜などの絵は、素朴だが情報量に富み、それが縁で研究の道に進んだという若き読者も少なくない。
ところがその間、地球史や遺伝子、古生物研究の進展は著しく、現今の最新知見を取り入れるかたちでアメリカでアップデート版(2009年)が出たのを機に、日本でも改訂版が出された。その改訂作業を監修したのが本書の著者である国立科学博物館の「恐竜博士」、真鍋真氏。雑誌「科学」に連載された「深読み!『せいめいのれきし 改訂版』」という名の解説を、まとめた。
『せいめいのれきし』は5幕34場の芝居形式の絵本で、舞台変化と主役たちの交代で、生命史の流れが自然に子供たちにも分かるように工夫されている。プロローグは古生代以前、1幕「古生代」、2幕「中生代」、3幕「新生代」、4幕「にんげんの時代」、5幕「現代のひとびとの生活」という具合。舞台袖の司会役の人間が、動物たちの大きさを示す大体のスケールになっていて、配慮も周到だ。もともと1幕扱いの中生代が、本書では「恐竜とはちゅう類の時代(1)(2)」と2章仕立てでたっぷり解説される。やはり恐竜博士である。植物食の恐竜が、繊維質消化のため腸を長くし、それで大型化した、などのことが語られる。
その他、解説で面白いのは、なんといっても従来とは違う新知見、新解釈だろう。哺乳類の起源については次のように語られる。脊椎動物は胚が羊膜に包まれる有羊膜類(爬虫類、鳥類、哺乳類)と、羊膜のない無羊膜類(魚類、両生類)に2大別される。有羊膜類の頭骨の後ろには穴があり、穴一つが単弓類、穴二つが双弓類。単弓類からはやがて哺乳類が、双弓類からは爬虫類と鳥類が生まれてきた。つまり哺乳類は一度も爬虫類段階を経ておらず、魚類↓両生類↓爬虫類↓哺乳類という単線進化説はありえないらしい。子供向け解説を読んで初めて大人にもよく分かる気がする。
古生代末に生命の大絶滅が起こらず、双弓類よりも単弓類が卓越した古生代が続いていたら、爬虫類の時代たる中生代を飛び越して、哺乳類の時代が早めにやってきていたかもしれない。
それにしても最近、本書を含め進化論関連の本の出版が目立つ。生物を進化論的に捉えるとは、絶滅種を含めあらゆる生物を大きな流れの中に位置づけること。全体の中で所を得るとなれば、無駄なものは一つもない。あらゆるものが固有の価値に輝き、だれもが主人公になれる。本書のメッセージもそれである。