「生産性」に取り憑かれた男は、そこからなにを学んだか?

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「生産性」に取り憑かれた男は、そこからなにを学んだか?

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

世界一の生産性バカが1年間、命がけで試してわかった25のこと』(クリス・ベイリー著、服部京子訳、TAC出版)とは、なんともインパクトのあるタイトルです。著者は高校生のころ「生産性」に関心を持ちはじめたそうで、以来この10年の大部分に生産性を取り入れてきたというのです。

では、生産性に関心を向けると、どのような効果が期待できるのでしょうか? このことについて語るにあたり、著者は平均的なアメリカ人が1日をどんなふうに使っているのかに焦点を当てています。最新の<アメリカ生活時間調査>によると、子どもを持つ25歳から54歳までのビジネスパーソンは次のように時間を使っているというのです。

・仕事 八時間四十二分  

・睡眠 七時間四十二分

・家事 一時間六分  

・飲食 一時間

・家族の世話 一時間十八分  

・その他 一時間四十二分

・趣味など自由に使える時間 二時間三十分

(「はじめに」より)

1日は24時間あり、誰もが有意義に使いたいと思うもの。しかし見てのとおり、日常的な務めに割く時間が1日の大きな割合を占めると、自由時間はわずか2時間30分しかありません。つまり、こういった現状を変えるため、生産性の出番が求められると主張するのです。そこで本書では、生産性向上に貢献する作戦が紹介されているというわけです。

ちなみに著者は大学卒業直後に「生産性の1年(A Year Of Procutivity)」、略してAYOPというプロジェクトをスタートさせたのだそうです。まるまる1年間、生産性についてなんでも貪欲に取り入れ、自分のウェブサイトに知り得たことを書き込むというシンプルなもの。その結果、生産性は「時間」「集中力」「活力」の3つの要素で成り立っていると悟ったのだといいます。

そうした考え方を意識しつつ、きょうはPART1「基本となる4つのこと」に焦点を当ててみたいと思います。

自分にとって価値あるものを見きわめよう

Point

もっと生産的になりたい、人生に前向きな変化を与えたいと誰もが思うことだろう。だが、実際にこのふたつを実現するのは難しい。生産的になりたい確固たる理由を持つことが、その意欲を持ちつづける支えとなるはずだ。(24ページより)

「なぜ自分はもっと生産的になりたいのか?」、その理由をしっかりと念頭に置くことが非常に重要だと著者はいいます。たとえば朝早く起きるとしたら、そこには理由が必要。「誰もがまだ眠っている時間に起きて、誰よりも多くのことをこなすような、“生産性の人”になる」というような、目的にはっきりしない空想をしているだけでは意味がないということ。

目的を定めることがなによりも重要であり、生産的になれるかどうかの鍵は、1日を通してじっくりと考えながら目的意識を持って働くことだという考え方。なにを達成したいのかを深く考えなければ、生産性向上はきわめて難しいという著者の言葉には、強い説得力があります。

生産性を向上させることによって、自分がどんなふうに変わりたいのか? その点をしっかりとイメージできていなければ、努力はすべてムダになってしまうといいます。それどころか、変わりたいという意欲を持ち続けることもできないと断言するのです。(24ページより)

すべてのタスクが重要なわけではない

Point

すべてのタスクが重要なわけではない。時間をかけるだけ目標達成に導いてくれるタスクがある。仕事から一歩引いてみると、重要なタスクを見きわめることができる。時間、集中力、活力を注ぎこむこともできる(34ページより)

生産性と密接に関係があるのが「タスクの重要度」の見きわめ。生産的な日々を送りたいのであれば、目標を定めてじっくりと考えながら行動することが大切だというのです。そしてその点を突き詰めていくと、「すべてのタスクが重要なわけではない」ということに気づくといいます。いいかえれば、時間をかけるぶんだけ確実に目標達成に導いてくれるタスクがあるということ。もっとも重要なタスクに時間と活力と集中力を注ぎこめば、同じ時間内でより多くの成果を上げることができるわけです。

では、どのようなものが重要なタスクなのでしょうか? この点については、ふたつの判断基準があるそうです。そのタスクは自分にとって意味があるか(自分にとって価値あるものと結びついているか)、もしくは、仕事に大きな影響を与えるものか。

みなさんは“パレートの法則”という言葉を耳にしたことがあるだろうか。別名“80:20の法則”とも呼ばれる。この法則は、結果の八十パーセントは原因の二十パーセントから導きだされるというものだ。

たとえば、あなたの売り上げの八十パーセントは顧客の二十パーセントからもたらされる。もしくは全利益の八十パーセントは二十パーセントの従業員によって稼ぎだされる。

この法則は生産性にもあてはめることができる。つまり、ほんの数個のタスクが成果の大部分をもたらす。(40ページより)

より多くの“量”をこなしたからといって、生産性が向上したとはいえないということ。適切な“こと”を行うことによって、生産性は向上するわけです。(34ページより)

毎日三つのタスクを書きとめよう

Point

<三の法則>は、じっくりと考え、目的を持って働くための最良のテクニックだ。やり方はいたって簡単。毎日仕事に取りかかる前に、その日にやりとげたい三つのことを決める。週のはじめにも同じことをする。(45ページより)

<三の法則>を開設するにあたり、著者はマイクロソフト社の事業計画担当ディレクターであるJ・D・マイヤーが書いた『Getting results the Agile Way』という生産性に関する本を引き合いに出しています。“簡略化”というレンズを通して生産性に焦点を当てているのだそうです。

この本にあるぼくのお気に入りが<三の法則>だ。生産性についてのブログ<禅の習慣>を運営しているレオ・バボータや、<ライフハッカー>のジーナ・トラパーニによっても提唱されている。

<三の法則>は新鮮で、好奇心をくすぐり、すぐに試してみたくなった。方法はいたって簡単。

・一日のはじめに自問する。“一日の終わりに、達成していたい三つのことは何か?” それから、その三つを書きとめる。

・毎週、週のはじめに同じことをする。

・その日、その週は、書きとめた三つのことに焦点をあてる。

(47ページより)

“三”は、達成したいことを設定するにはちょうどよい量だと著者はいいます。三つなら、重要なことをじっくり考えられるとも。事前になにかを決めていても非常事態は発生するし、急ぎの仕事やなんらかのトラブルが起きることもあるでしょう。しかし三つの目標を設定しておけば、困難な状況であっても目的へと進むことができるというのです。前述したJ・D・マイヤーはそのことについて、「単純化させることで、物事を発展させることも刷新することもより簡単になり、複雑なものにも容易に対処できるようになる」と説明しているそうです。(45ページより)

“時間”“集中力”“活力”を支配する

Point

自分の活力レベルがピークに達する時間帯を知って、その時間帯をもっとも重要なタスクにあてる。そうすると、活力と集中力を注ぎこめる。一週間の時間の使い方を追跡することで、時間を有効に使っているかどうか、しっかり集中しているかがわかる。(54ページより)

著者はいいます、「確固たる自信があるとしても、時間や集中力や活力は完全にはコントロールできない。それはごくごく自然なことなのだ」と。だから、この3つをどうコントロールしているかを知る必要があるというのです。

また、生産的な人たちは時間を管理するだけではなく、活力と集中力もコントロールしているもの。活力がいちばん充実しているときに重要なタスクに取り組むため時間調整をする。これこそ、頭を使って働ける簡単な方法だということ。「いつなにに取り組むか」を完全にコントロールすることは難しいけれども、タスクに取り組むのに適切な時間帯を理解すれば、生産性は大いに向上させられるということです。(54ページより)

著者の主張は実体験に基づいたものなので、机上の空論ではありません。だからこそ強さを感じさせるのです。また本書においては、生産性について著者が得た成果を四コマ漫画とともに紹介しているので、とてもわかりやすいはず。気になるけれども本質をつかみにくい「生産性」について理解するために、ぜひ読んでおきたいところです。

Photo: 印南敦史

メディアジーン lifehacker
2017年9月21日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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