大人の心を魅了する素敵な泥棒をご紹介 「怪盗ニック」ほか

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大人の心を魅了する素敵な泥棒をご紹介

[レビュアー] 若林踏(書評家)

 児童向けミステリの古典的定番と言えばシャーロック・ホームズに少年探偵団、そしてアルセーヌ・ルパン。幼い頃、大胆不敵な怪盗ルパンの活躍に心躍らせた方も多いはず。そこで今回は大人の心も魅了する素敵な泥棒たちをご紹介する。

 一人目はエドワード・D・ホックが生んだ怪盗ニック。価値のないものだけを盗むという風変わりな信念を持ち、プールの水や使用済みのカレンダーなど、変なものが盗みの対象となる。各編では奇抜な盗みのアイディアに加え、なぜそんなものを盗む必要があるのか、という凝った謎解きが展開されるのだ。一粒で二度美味しい泥棒の冒険譚は『怪盗ニック全仕事』(1~4巻、木村二郎訳、創元推理文庫)でどうぞ。

 二人目は世界一ついてない泥棒、ドートマンダーである。ドナルド・E・ウエストレイクの創造したこの泥棒は天才的な犯罪プランナーにもかかわらず、毎度予期せぬ事態が起きて危機に陥ってしまう。第一作『ホット・ロック』(平井イサク訳、角川文庫)を読めば彼の知略に驚きながらも、果てしない不運の連続に笑いが止まらない。

 ニックもドートマンダーもミステリ史に残る泥棒キャラクターだが、「もっと奇妙な泥棒の話を読みたい」という人には法月綸太郎怪盗グリフィン対ラトウィッジ機関』がお薦め。

 本書に登場するグリフィンは「あるべきものを、あるべき場所に」を信条とする凄腕の泥棒だ。ケンドールと名乗る男に呼び出されたグリフィンは、伝説のSF作家P・K・トロッターが残した原稿『多世界の猫』を盗んで欲しいとの依頼を受ける。実は『多世界の猫』は、ケンドールの教え子が物語を自動創作するテクノロジーによって生んだ贋作だというのだ。

 依頼を受けたグリフィンを待ち受けるのは、SF的な挿話の数々と無数の〈猫〉。何が嘘で何が真実か判別不能の世界で「あるべきもの」を盗む怪盗の物語は成立可能か、という実験を作者は試みる。本書で盗まれるのは“怪盗もの”というジャンルの型そのものだ。

新潮社 週刊新潮
2017年10月26日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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