<東北の本棚>賛成・反対の論点を整理

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<東北の本棚>賛成・反対の論点を整理

[レビュアー] 河北新報

 東京電力福島第1原発事故を機に、原発の利用を巡る考え方は大きく分けて二つに割れた。一つは原発を維持して安全管理を徹底しようという意見。もう一つは、そもそも原発利用をやめようという意見。それぞれの主張には理由・根拠があり、一概にどちらが正しいとは言い切れない。本書はこうした議論のポイントを整理し、一人一人が原発の是非について論理的に判断できるように導くワークブックだ。
 「準備編」として原発に関する基礎知識を解説。放射線と放射能の違い、物理学的半減期の意味、内部被ばくと外部被ばくの人体に及ぼす影響差などを説く。低線量被ばくの影響については科学的にも評価が定まっていないことを説明。発がんリスクは一般に被ばく線量が一定値を超すと高まる「確定的影響」とされるが、少ない線量でも常に若干の発がんの恐れがある「確率的影響」とする見方も存在するという。
 後半に収めた「本編」では、原発の是非を判断する材料として(1)被ばく影響(2)地球温暖化(3)核燃料サイクル(4)地域間の公平(5)世代間の公平-など九つの論点を列挙し、具体的に検証する。例えば(5)に関しては「原発は現在世代だけに利益をもたらし、将来世代には放射性廃棄物の管理や放射能汚染という不利益しかもたらさない」とする意見と、「技術革新が期待できる将来世代による解決を期待しつつ、原発を利用するのは許容される」という意見を併記した。
 読者は対立する論点の中身を一つ一つ考量していく中で、あいまいだった考えが整理され、原発にどのように向き合うべきかという自身の立場が明確になっていく。政治家や官僚が常に正しい判断をするとは限らない。都合の良い仮定を積み重ねた主張に流されず、正確な知識に基づいてしっかり意見を整理することは世論を形成する市民の役割でもある。著者は中京大国際教養学部教授。環境科学全般を専門とする。
 創成社03(3868)3867=1512円。

河北新報
2017年11月19日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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