『ラーメンを科学する』
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なぜラーメンに魅かれるのか うまさの秘密に科学的に迫る
[レビュアー] 東えりか(書評家・HONZ副代表)
年間消費量が60億食を超えるというラーメン。日本の人口約1億人で割ると一人年間60杯も食べているということになる。だいたい週に1回以上。そんなには食べていない私でも行列のできる店は気にかかる。
食べ物における「マニア」の始まりがラーメンではないだろうか。ではなぜ人はラーメンに魅かれるのか。その味を科学的に解明しようというのが本書である。
ラーメンを定義するとこうだ。「アミノ酸と核酸を含む塩化ナトリウム溶液に糖質とタンパク質を主とした結着組織を浸漬させたもの」。
この味気ない構成成分に拘るのがラーメン屋の気概である。スープの出汁はアミノ酸と核酸の相乗効果を狙い、中華麺のコシには“かん水”という化学物質が欠かせない。
まずは「うま味」。その店独特のうま味が中毒者を作る。元のスープの味が枝分かれし〇〇系と括られる流派ができる。家(いえ)系、二郎系、青葉系、大勝軒系など作り手は師匠筋の味を継承したうえ、さらに独自のうま味を加える。ではうま味とは何か。
舌の受容体がうま味を感知し、調味料や塩分を少なくしてもおいしさを感じることができるという。だがうま味が強ければいいわけではなく、他の味とのバランスが重要なのだとうま味の専門家は語る。
お酒を飲んだあとラーメンを食べたくなるのはなぜか。麺のおいしさの決め手とは。つけ麺はなぜぬるいのか。話題の無化調ラーメンとは何か。名店の味のインスタントラーメンはどう作るか、おいしく食べる時の擬音は何か、など興味は尽きない。
大量の麺と野菜と脂ぎったスープで有名な行列のできる店は、一度目はげんなりするのに三度行くと病みつきになるという。おいしいは麻薬と同じで、何度でも通い詰めるのだ。
ラーメンは科学で解明された。これからはその結果を再構築し、さらなるおいしさを求めていく。ラーメン文化の隆盛はしばらく続きそうだ。