家族を介護する子ども「ヤングケアラー」に光を当てた一冊

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ヤングケアラー―介護を担う子ども・若者の現実

『ヤングケアラー―介護を担う子ども・若者の現実』

著者
澁谷 智子 [著]
出版社
中央公論新社
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784121024886
発売日
2018/05/21
価格
880円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

孤立と断絶に追いつめられるヤングケアラーたちの現実

[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)

 ヤングケアラーという呼称はこの本で初めて知ったのだけれど、そういう子どもはずっと前から知っていた。家庭のなかで介護役を担い、つきっきりで高齢者を世話したり、炊事や洗濯に追われたりしている子どものことだ。介護を優先してしまうため、学校では「さぼる子」「だらしない子」と評され(実際は正反対なのに!)、恥ずかしい思いをしている。わたしはかつて地域の学習塾で長いこと働いていて、こういう子を何人も見てきた。

 澁谷智子『ヤングケアラー 介護を担う子ども・若者の現実』は、以前から存在しているのに誰にも注目してもらえなかった存在に光を当てた。こんな理由で進学をあきらめる子がたくさんいるんです。

 ヤングケアラーは、学校ではもちろん、ときには家庭のなかでも孤立していく。自分の担う役割が重すぎることを人に伝えるすべがないのだ。勇気を出してしんどさを訴えたのに、単なる不平不満だと思われる。そういう体験をすれば絶望して、本当のことを誰にも言えなくなる。また、「介護は施設に頼めばいい」とか「人の世話より自分の人生を大切にしなさい」といった無責任で心ない助言も、彼らの重荷になる。「大切な家族の世話が優先か、自分の人生が優先か」という残酷な二者択一を、自己責任で決定せよと迫ることになるからだ。

 人を追いつめるのは孤立と断絶。それは介護や家族の問題にとどまらない。「話せる回路」を確保しよう。そして死守しよう。

新潮社 週刊新潮
2018年7月5日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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