中江有里「私が選んだベスト5」 夏休みお薦めガイド

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中江有里「私が選んだベスト5」 夏休みお薦めガイド

[レビュアー] 中江有里(女優・作家)

 黒澤いづみ『人間に向いてない』。ある日我が子が虫や動物などに変貌する病「異形性変異症候群」にかかった親の苦悩が描かれる。異形の描写はたまらなく生々しいが、ただ怖いだけじゃない。この病に罹患した患者は生きていても法的に死亡したものとされる。

 どんな我が子でも愛せるのか、本作は親子関係に光を当てているのだ。また異形の他人を排除する権利が誰にあるのか、異形となった社会的弱者に対しての社会のあり方まで問うている。

 異形の息子を育て直そうとする母、排除してやり直しを図ろうとする父。どちらの気持ちにも共感する自分がいた。本当に恐ろしいのは異形ではなく、異形を排する人間かもしれない。

 山崎ナオコーラ『偽姉妹』。家族は結びつきが強い分、つい甘えも生まれがちだ。主人公の正子は同居する姉、妹との考え方の齟齬に気づき、自分と考えの合う友人たちと姉妹になろうとする。これは小説内の実験? いや、現実には叶姉妹や阿佐ヶ谷姉妹だっているのだ。気の合う偽姉妹、偽兄弟関係もいい。読み終わって心が一皮むけた気がする。

 名探偵シャーロック・ホームズの作者の人生を描いた河村幹夫『評伝 コナンドイルの真実』。貧しい家庭に育ち、忍耐力と独立心盛んなドイルを支えた母、人気を博したホームズを自ら封印した過去、心霊主義への傾倒……ドイルの人生は、ホームズに負けずスリリングでミステリアス。

 堀越豊裕『日航機123便墜落 最後の証言』は日米双方への丹念な取材を元に墜落の原因を検証する。事故当初、米側はテロを疑っていたことや修理ミスの日米の解釈の違いなど、驚きの事実が詰まっている。

 話術の達人である徳川夢声の『話術』は雑談から人前でのスピーチまで、話し方のコツを伝授してくれる。

新潮社 週刊新潮
2018年8月16・23日夏季特大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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