[本の森 歴史・時代]『近松よろず始末処』築山桂

レビュー

3
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近松よろず始末処

『近松よろず始末処』

著者
築山 桂 [著]
出版社
ポプラ社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784591156940
発売日
2018/04/06
価格
1,760円(税込)

書籍情報:openBD

[本の森 歴史・時代]『近松よろず始末処』築山桂

[レビュアー] 田口幹人(書店員)

 NHK土曜時代劇で連続ドラマ化された『緒方洪庵 浪華の事件帳』シリーズをはじめとした時代小説シリーズや、若手の読者層を意識した青春時代小説、さらには子供向けの時代ファンタジーなど、時代小説の枠組みを取り払うかのように描く世界を広げている築山桂

 そんな著者に、心を鷲掴みされ、書店員として悔しい思いを感じた作品があった。天下を揺るがす書として封印されてきた聖徳太子の予言の書『未来記』をめぐる、エンタメ要素をふんだんに盛り込んだ痛快時代小説『未来記の番人』(PHP文芸文庫)だ。読み終えたあとの興奮をそのままPOPにし、大きく展開したがうまくお客様に伝えることができなかった。しかも、こんなにも面白い本が品切重版未定に。その知らせを聞いたときの悔しさは今でも忘れない。「いつの日か、また」その願いを持ち続け、著者の本を読み続けている。

『近松よろず始末処』(ポプラ社)は、緒方洪庵シリーズに類する、歴史上の人物や史実をベースに様々な事件や謎を解く物語。著者の、史実と嘘の絶妙な線引きは本書でも健在だ。

 元禄時代の道頓堀・竹本座界隈で、お役人に頼っても埒があかない厄介ごとを引き受ける近松万始末処は、人気浄瑠璃作家・近松門左衛門が営む裏稼業だ。仕事を引き受けるだけの近松と元・賭場の用心棒の虎彦、正体不明の美剣士の少将、そして忠犬鬼王丸が問題解決の実行部として謎に挑む。

 元禄の世を象徴している「犬騒動」を題材とした一章。「仇討ち」をテーマとしつつ元禄時代の武士と町人の溝を描いた二章。三章では、近松のライバルだった井原西鶴の幽霊騒動を通じ人の情念深さを描いている。そして、四章では、醤油屋の徳兵衛と遊女屋・天満屋のお抱え女お初、さらに九平次まで、「よっ、待ってました!」とばかりに近松門左衛門の代表作『曽根崎心中』の面々までもが登場するのだ。

 四章で構成されている連作時代小説なのだが、いくつもの読み方をすることが出来るように仕組まれている。まずは、各章を独立した短篇としてお読みいただくことをおすすめしたい。そして最後に四章を通してちりばめられたパズルのピースを繋げてみると、ある一人の人生が浮き上がる。それは読んで確かめてほしい。

 作中で近松は、町の者が楽しむための浄瑠璃は、町の者の悩みや苦しみを反映させたものがいい、と語っている。

 近松がスランプの時期を乗り越え、世話物の代表作『曽根崎心中』を書き上げたあの時代に、町の者が何を悩み、何に苦しんでいるのかを調べるために、「近松万始末処」があったのかもしれないと想像しただけで胸が躍る。これぞ、築山桂の真髄だ!

 最後に、『未来記の番人』の重版をねだり、締めとする。

新潮社 小説新潮
2018年9月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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