ジェンダーを“超えた”テーマでジェンダーを語るディストピア小説

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パワー

『パワー』

著者
ナオミ・オルダーマン [著]/安原 和見 [訳]
出版社
河出書房新社
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784309207551
発売日
2018/10/26
価格
2,035円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

ジェンダーを“超えた”テーマでジェンダーを語るディストピア小説

[レビュアー] 鴻巣友季子(翻訳家、エッセイスト)

 この十年余り、世界的なディストピア小説ブームだ。その中で大きな流れの一つは、米国の南北対立をモチーフにし、「トランプ政権を予見」と言われるような小説群。

 もう一つの流れは、フェミニズムと結びついたもので、こちらの親玉は、女性の性奴隷制を描いたマーガレット・アトウッド『侍女の物語』だろう。今年のブッカー賞もフェミニズム系ディストピア圧勝の感あり。注目の女性作家が目白押しだ。

 ナオミ・オルダーマンはアトウッドから直接指導を受けてデビューした肝煎りの新鋭作家。『パワー』のパワーが半端でないのは当然で、#MeToo運動の火付け役になったとも言われている。

 考古学者「アーモン」が自分の学説を歴史小説の体裁で書いたという体裁の「メタ偽書」だ。この本が書かれた五千年以上先の未来では、世界は女性たちに支配されている。男性は女性に体力、知力の点で劣り、暴力やレイプの危険に晒される。弱者である“男流作家”アーモンはオルダーマン先生に助言を仰ぎながらこの小説を書いたらしい。

 アーモンによれば、過去の世界は男性に支配されていた。あるとき突然変異が起き、女性たちの鎖骨に特殊な電気パワーを発する臓器が発達し、男女の力関係は逆転していったのだ。ギャングのボスの娘は復讐に出る。田舎の女性市長は権力を拡大し、ある少女は性的虐待を行った養父母を……。

 ところが、オルダーマン先生は「かつて女性は弱く、数々の戦争を引き起こしたのも男性だった」という説をどうしても受け入れられない。でも、小説としては「面白いですよ」とアーモンを鷹揚に褒め、これを女性名で発表することを勧めるのだ。

 本書の「未来」で行われることはすべて、過去と現在に、男女を逆転して行われてきたこと。ジェンダーの区別なく、みなさん、目を背けずにお読みください。

新潮社 週刊新潮
2018年12月13日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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