日本の近現代史を通信史から俯瞰する希有で貴重な一般書
[レビュアー] 板谷敏彦(作家)
これまで通信史の本といえば純粋な技術史しかなかった。また関連した情報史や暗号史の分野では海外のものばかりであった。
本書は日本の近現代史を国際通信史の側面から俯瞰する希有で貴重な一般書である。
日本が開国した頃、電信が発明され、海底ケーブル網が世界中に張り巡らされようとしていた。時代はパクス・ブリタニカ。大英帝国はオール・レッド・ルートと呼ばれる国際通信網を自国領土だけで構築できた。
やがて無線通信が発達してくる。無線であれば敷設に必要な領土や制海権、またケーブル敷設のコストがかからない。その無線も長波から短波へと進化し、第2次世界大戦直前には日本における国際通信の約9割が無線になっていた。
戦後になると同軸ケーブルが発明され、再度海底ケーブルが優位になるが、今度は衛星通信が台頭する。テレビ画面の片隅にあった「衛星中継」のテロップはさほど昔の話では無い。
そして時代はアナログからデジタルになる。もはや電気信号ではなく光が海底ケーブルを通じてインターネットをはじめとする世界の大容量通信を支える時代となった。国際通信の歴史は海底ケーブルからはじまり、空中と海底を行き来しているのだ。
本書は主に三つのテーマで構成されている。(1)通史としての通信史、(2)通信史を踏まえた上での第2次世界大戦における「対米最終通告の遅れ」の再検討。そして(3)産業・証券史に関連する通信のデジタル化とインターネット網拡大の衝撃である。
この中の一つだけでも、それぞれ読むべき価値がある。だが歴史マニアではなくとも是非おすすめしたいのは(3)のデジタル化以降の現在進行中の通信史だ。ビジネスマンや投資をする人、時事問題を追う人には必須の知見である。