中江有里「私が選んだベスト5」 年末年始お薦めガイド2018-19

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク
  • 不意撃ち
  • 平場の月
  • 悲しくてかっこいい人
  • 通信の世紀: 情報技術と国家戦略の一五〇年史
  • 私の生い立ち

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

中江有里「私が選んだベスト5」

[レビュアー] 中江有里(女優・作家)

 辻原登『不意撃ち』。すぐそばにいるかもしれない誰かの日常から、思いもよらない世界に連れ出される五つの短編。「仮面」は、東北の津波の映像を見て「出番が来たんちがう?」と現地へ駆けつけた男女の行動を追う。どうにもならない現実から逃げ出すために災害を利用する彼らを見つめる被災者たちの不安。男女が運命に「不意撃ち」された時、こちらの胸も撃たれた。人生の果てに待ち受けるのは、これまでの罪と罰なのか……。

 朝倉かすみ『平場の月』。青砥(あおと)が中学時代にコクってフラれた須藤と再会したのは病院の売店だった――須藤の訃報が届いて、物語の時は巻き戻される。親の介護、互いの過去もある五十歳の青砥と須藤は今が「ちょうどよくしあわせ」で家飲みを楽しめる二人だった。

 過去を辿っていくにつれ、最初から明かされている結末が辛い。若くなくなってからの方が恋愛は滋味深く、忘れがたい。

 韓国のアーティスト、イ・ランのエッセイ『悲しくてかっこいい人』。十六歳で家を出て、漫画を描き、歌い、映画を撮るなど、マルチに活動する著者は喜びも不安もそのまま文章にする。まったく知らない人なのに、読むうちにとても近しい人のように感じた。根底に共通するのは、わけのわからない悲しみなのかもしれない。

 大野哲弥『通信の世紀 情報技術と国家戦略の一五〇年史』。通信に対する戦略が、国家の命運を左右することが歴史的に明らかにされていく。最近の通信機器大手を巡る米中の対立も、まさに「通信の世紀」の戦争なのだろうと思えてくる。

 二〇一八年、生誕百四十年を迎えた与謝野晶子『私の生い立ち』。少女時代の環境を細やかに映し出す観察眼はこの頃から磨かれてきたのだろうか。竹久夢二の挿画がピッタリな自伝。

新潮社 週刊新潮
2019年1月3日・10日新年特大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク