<東北の本棚>「重喜劇」ファンを魅了

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偽善への挑戦 映画監督 川島雄三

『偽善への挑戦 映画監督 川島雄三』

著者
カワシマクラブ [編]
出版社
ワイズ出版
ISBN
9784898303252
発売日
2018/12/25
価格
3,025円(税込)

<東北の本棚>「重喜劇」ファンを魅了

[レビュアー] 河北新報

 日本映画界の奇才として名高い、むつ市出身の川島雄三監督(1918~63年)。常識にとらわれない人間観察と時代への批判精神に基づくドライな作風は「重喜劇」と呼ばれ、ファンを魅了する。撮影現場の写真と共に、作品解説や生前の対談、関わりがあった人たちの寄稿を収録した。
 松竹で修業した川島は44年、当時の最年少で監督デビュー。筋萎縮性側索硬化症を患いながら日活、大映、東宝と渡り歩き、「州崎パラダイス 赤信号」(56年)「貸間あり」(59年)などの傑作を生んだ。
 代表作「幕末太陽伝」(57年)はフランキー堺が主演。「居残り佐平次」「品川心中」といった古典落語を巧みに組み合わせ、名も無い庶民が激動の時代をしたたかに生きる物語だ。粗筋、解説に加え、舞台となった遊郭の平面図を載せた。
 かつて川島の助監督を務めた山本邦彦氏へのインタビュー記事を掲載。撮影の際、川島から次々にむちゃな質問をされ当意即妙な応答が求められたことや、銀座の高級クラブなどではしご酒を繰り返し、今村昌平監督らに絡んだ逸話がユニークな人柄を浮き彫りにする。
 タイトルは川島が45歳で急死する直前、雑誌の対談で自らの作風について語った言葉に由来する。
 カワシマクラブは川島ファンの映画サークル。2014年に出版した「監督川島雄三 松竹時代」(ワイズ出版)の続編。作品解説として日活時代以降の27作を取り上げた。「しとやかな獣」などで活躍した若尾文子ら川島映画に登場する女優論、同じ青森県出身の太宰治、寺山修司との接点に関する論考も興味深い。
 ワイズ出版03(3369)9218=2970円。

河北新報
2019年3月31日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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