<東北の本棚>絶望せず前へ進む庶民
[レビュアー] 河北新報
中東のパレスチナに暮らす庶民に光を当てたルポルタージュ。イスラエルが実質的に軍事支配するパレスチナ自治区のヨルダン川西岸地区を軸に、人道危機にさらされながらなりわいに励む市民の日常を切り取った。
前半は写真家の高橋氏が2000年以降、街頭や農地でレンズを向けた記録だ。屋台の店員、理容師、難民キャンプの清掃員らが穏やかな表情を浮かべる。ある男性はイスラエル軍に殺された叔父の自動車修理工場を引き継いだ。絶望しそうな状況でも、働くことをやめず前に進む人々の姿に勇気づけられる。
地中海に面し、豊かなオリーブ畑を育むパレスチナの土地と、高い職人気質に触れるのが後半だ。フェアトレード団体代表の皆川氏が取引先を訪れる。オリーブオイルの生産団体は、パレスチナ人とユダヤ人の女性たちが連携して高品質の商品を供給する。
本書は1948年のイスラエル建国に始まるパレスチナ問題を知る入門書でもある。占領を続けるイスラエルはもとより、パレスチナ自治政府の機能不全や、イスラエルに肩入れするトランプ米政権にむやみに追従する日本政府に批判の目を向ける。
皆川氏は東北大大学院国際文化研究科在籍中からフェアトレードに従事し、仙台市若林区を拠点に活動した。
かもがわ出版075(432)2868=1944円。