ガヤガヤした雰囲気の中この料理で一杯やりたい

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大衆酒場の作法 煮込み編

『大衆酒場の作法 煮込み編』

著者
玉袋 筋太郎 [著]
出版社
扶桑社
ジャンル
芸術・生活/諸芸・娯楽
ISBN
9784594615130
発売日
2020/02/26
価格
1,320円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

ガヤガヤした雰囲気の中この料理で一杯やりたい

[レビュアー] 立川談四楼(落語家)

 著者の文章を読み、各店名物の写真を舌舐めずりしながら眺める。ああ、この料理で一杯やりたい。しかし今はそれが叶わない。営業時間の短縮ならいい方で、かなりの店が休業に追い込まれているからだ。

 それだけに店や自慢料理、そしてあのガヤガヤした雰囲気がいとおしい。しかしそれらの店は、概ね濃厚接触を売りにしているのだ。ああ。

 今は居酒屋と呼ぶが、本書のタイトルで思い出した。そう、かつては大衆酒場と呼んでいたのだ。ヤキトリと書いてはあるが大概はヤキトンであったり、ジョッキで飲んでいるから生ビールかと思ったら、それがホッピーの始まりだったりしたのだ。

 本書は煮込み編となっていて、まず注文する品だろう。それだけに店も力を入れ、特色を出していて、ラーメンと同様、塩、醤油、味噌味と百花繚乱である。私は豆腐が好きで、煮込み豆腐なるものをよく注文する。

「シロ4本、タン4本。シロはタレ、タンは塩で。お、鰹のタタキも一つもらおう。あ、冷しトマトもね」

 そんな風に頼み、前や横に気の置けない友でもいれば言うことなし。人はそうやって至福の時を過ごしてきたのだ。東京、首都圏、それから全国の有名店と、かなりの店が紹介されているが、私は新規2店と再訪したい1店に印を付けた。

 しかし、とここで溜め息が出る。この新型コロナウイルスが終息したとして、果たしてどれだけの店が持ち堪え、生き残ることができるのかと、つい考えてしまうのだ。何しろ自治体は営業の自粛をと言いつつ、一方で国は補償はしないと突き放しているのだから。今こそ大量のカネを投入すべきだと思うのだが。

 著者は大衆酒場十ヶ条を記していて、私は「二、戦火をくぐるより、暖簾(のれん)をくぐれ」が好きだ。今まさに戦時下という状況で、いつの日か大衆酒場の暖簾を「いよっ」と威勢よくくぐりたいものだ。

新潮社 週刊新潮
2020年4月30日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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