『大衆酒場の作法 煮込み編』
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ガヤガヤした雰囲気の中この料理で一杯やりたい
[レビュアー] 立川談四楼(落語家)
著者の文章を読み、各店名物の写真を舌舐めずりしながら眺める。ああ、この料理で一杯やりたい。しかし今はそれが叶わない。営業時間の短縮ならいい方で、かなりの店が休業に追い込まれているからだ。
それだけに店や自慢料理、そしてあのガヤガヤした雰囲気がいとおしい。しかしそれらの店は、概ね濃厚接触を売りにしているのだ。ああ。
今は居酒屋と呼ぶが、本書のタイトルで思い出した。そう、かつては大衆酒場と呼んでいたのだ。ヤキトリと書いてはあるが大概はヤキトンであったり、ジョッキで飲んでいるから生ビールかと思ったら、それがホッピーの始まりだったりしたのだ。
本書は煮込み編となっていて、まず注文する品だろう。それだけに店も力を入れ、特色を出していて、ラーメンと同様、塩、醤油、味噌味と百花繚乱である。私は豆腐が好きで、煮込み豆腐なるものをよく注文する。
「シロ4本、タン4本。シロはタレ、タンは塩で。お、鰹のタタキも一つもらおう。あ、冷しトマトもね」
そんな風に頼み、前や横に気の置けない友でもいれば言うことなし。人はそうやって至福の時を過ごしてきたのだ。東京、首都圏、それから全国の有名店と、かなりの店が紹介されているが、私は新規2店と再訪したい1店に印を付けた。
しかし、とここで溜め息が出る。この新型コロナウイルスが終息したとして、果たしてどれだけの店が持ち堪え、生き残ることができるのかと、つい考えてしまうのだ。何しろ自治体は営業の自粛をと言いつつ、一方で国は補償はしないと突き放しているのだから。今こそ大量のカネを投入すべきだと思うのだが。
著者は大衆酒場十ヶ条を記していて、私は「二、戦火をくぐるより、暖簾(のれん)をくぐれ」が好きだ。今まさに戦時下という状況で、いつの日か大衆酒場の暖簾を「いよっ」と威勢よくくぐりたいものだ。