アイヌの権利とは何か テッサ・モーリス=スズキ、市川守弘著、北大開示文書研究会編  

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アイヌの権利とは何か

『アイヌの権利とは何か』

著者
テッサ・モーリス=スズキ [編集]/市川 守弘 [著]
出版社
かもがわ出版
ジャンル
社会科学/政治-含む国防軍事
ISBN
9784780311006
発売日
2020/07/01
価格
2,200円(税込)

書籍情報:openBD

アイヌの権利とは何か テッサ・モーリス=スズキ、市川守弘著、北大開示文書研究会編  

[レビュアー] 松村洋(音楽評論家)

◆「聞かない」政府を批判

 今年七月に開業した北海道白老町の国立アイヌ文化施設「民族共生象徴空間(ウポポイ)」では、アイヌの伝統的な歌や踊りを鑑賞できる。アイヌ歌謡に興味がある私には気になる場所だ。しかし、そこは本当にアイヌと和人(非アイヌの日本人)の共生実現に資する空間なのだろうか。

 本書で、テッサ・モーリス=スズキは、ウポポイ建設に至る歴史をたどり、日本政府の姿勢を厳しく批判している。政府はアイヌを先住民族と認めたが、先住権(=自然資源などの利用に関する諸権利)は認めず、アイヌの集団が自律的に暮らす道を否定した。そのうえで伝統的な文化だけを切り取って巧妙なイメージ操作を施し、東京五輪に合わせて造られたウポポイで観光に利用するといったことでよいのか、と彼女は問う。挙げられているオーストラリアなどの事例と比べると、日本政府のごまかしは明白だ。

 さらに市川守弘は「先住民族の権利に関する国際連合宣言」と照らし合わせつつ、日本の法律の不備を明確に指摘している。本書の重要なテーマのひとつであるアイヌ遺骨問題の本質もよくわかる。

 ウポポイには、人類学者らが学術資料として収集し、大学などに保管していたアイヌの遺骨千二百体以上が納められた。収集された遺骨の大半は、アイヌに返されていない。これでは遺骨を墓から持ち去った学者の責任があいまいにされ、今後も先祖が研究資料にされかねない。浦幌アイヌ協会前会長の差間(さしま)正樹氏は、そんな危惧を表明している。エンチウ(=樺太アイヌ)の母を持つ楢木貴美子氏は「人は亡くなったら土に返してあげる」のが「人の道だと信じています」と語る。だが、政府はそういう優しい心の声を一向に聞こうとしない。

 モーリス=スズキは、まず「聞く」ことの大切さを説く。先住民族の体験談や意見や提言をマジョリティ側の人間がよく聞き、深く理解してこそ「和解」や「共生」が始まる、という指摘は重要だ。アイヌの主張に耳を傾けるのは、もちろん善意の行為などではなく、和人の義務であろう。

(かもがわ出版・2200円)

<モーリス=スズキ> 1951年生まれ。オーストラリア国立大名誉教授。市川 1954年生まれ。弁護士。

◆もう1冊 

植木哲也著『新版 学問の暴力 アイヌ墓地はなぜあばかれたか』(春風社)

中日新聞 東京新聞
2020年8月16日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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