原作の陳腐さを際立たせる 映画版“永遠の魔性の女”

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悪女イヴ

『悪女イヴ』

著者
ジェイムズ・ハドリー・チェイス [著]/小西宏 [訳]
出版社
東京創元社
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784488133290
発売日
2018/06/21
価格
1,100円(税込)

書籍情報:openBD

原作の陳腐さを際立たせる 映画版“永遠の魔性の女”

[レビュアー] 吉川美代子(アナウンサー・京都産業大学客員教授)

 魔性の女という言葉も知らない子供時代に親と一緒に観たフランス映画『エヴァの匂い』。エヴァを演じたジャンヌ・モローのハリウッド女優とは異質の美しさに、子供ながら強烈な印象を受けたのを覚えている。

 原作は犯罪小説や探偵小説で有名なチェイスの『悪女イヴ』。現在、書店では手に入りにくいようだが、大人になって原作を読み、再び映画を観て感じたのは原作のあまりの陳腐さ。

 イヴはハリウッドの小さな一軒家で客を取っている30代前半にも後半にも見える娼婦。彼女に惹かれていく主人公は、死者の作品を盗用して有名作家の仲間入りを果たした男。才能がないことは自分が一番知っている。周りにいるのは才能豊かな友人や金と権力を持つ人物ばかり。恋人は美人で仕事もできる。だから、彼には上から目線で物が言える相手や同類と思える女が必要だったのだろうか。

 彼はイヴに客としてではなく、友人として付き合いたいと言うが、彼女にとってはあくまで客の一人。仕事もせず、イヴに執着しストーカーのようになって自滅への道まっしぐらの主人公の行動はもう理解不能の領域(笑)。どう読んでも、イヴは痩せて胸ペチャ、中身も薄っぺらな、気だけは強いプロの中年娼婦。悪女と呼べるほどではない。

 ジョセフ・ロージー監督『エヴァの匂い』の舞台はベネチアとローマ。ジャンヌ・モロー演じるエヴァは、一瞥しただけで男を虜にして破滅させる魔性の女。意地悪そうな表情で物憂げに煙草をくゆらす姿がこれほど様になる女優は他にいない。監督は赤狩りでハリウッドを追われた人。でも、フランスでジャンヌ・モローと出会えたからこそ、永遠の魔性の女エヴァを生み出せたに違いない。

 モノクロの映像、全編に流れるジャズ、当時ジャンヌ・モローの恋人だったピエール・カルダンデザインの衣装。どれをとっても60年代のフランス映画らしいアンニュイな雰囲気が漂う『エヴァの匂い』。原作の陳腐さは見事に消え去った。

 55年後、イザベル・ユペール主演で再映画化されたのが『エヴァ』。でも、魔性なしの年増の性悪女にしか見えなかった。残念。

新潮社 週刊新潮
2020年10月1日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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