ジョン・ボルトン回顧録 トランプ大統領との453日 ジョン・ボルトン著 

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

ジョン・ボルトン回顧録 トランプ大統領との453日

『ジョン・ボルトン回顧録 トランプ大統領との453日』

著者
ジョン・ボルトン [著]/梅原季哉 [訳]
出版社
朝日新聞出版
ジャンル
社会科学/政治-含む国防軍事
ISBN
9784022517173
発売日
2020/10/07
価格
2,970円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

ジョン・ボルトン回顧録 トランプ大統領との453日 ジョン・ボルトン著 

[レビュアー] 渡部恒雄(笹川平和財団上席研究員)

◆「自分第一」外交の実態暴露

 トランプ政権の三人目の国家安全保障担当大統領補佐官を務めたジョン・ボルトン氏の回顧録は、世界に混乱をもたらしているトランプ政権の外交・安全保障政策の実態に光を当てる異例の一冊だ。大統領に直接助言をする人物が、同じ大統領の在任中に回顧録を出すことは異例だし、その内容はトランプ氏の資質を疑わせる衝撃的な暴露のオンパレードだ。

 トランプ氏は、香港の民主化運動に「私はかかわりたくないな」といい、中国の天安門事件三十年記念への声明を拒否し、習近平主席には新疆ウイグル自治区の住民の収容施設について「いいことだ」と伝えた。ボルトン氏によれば、習主席との通商ディールを成功させたいという個人的な目標が優先されたからだ。

 トランプ側近たちがウクライナのゼレンスキー大統領に対して軍事援助停止をちらつかせ、民主党バイデン候補の息子の同国での不透明なビジネスの実態調査を持ちかけた「ウクライナ疑惑」(トランプが議会から弾劾訴追された)が進む状況も描かれている。ボルトン氏は横目で見ながら「麻薬取引(のような不正)には関(かか)わらない」として関与を拒否した。一方で民主党の弾劾訴追に対してもあまりに政治的すぎて失敗したと批判する。

 ボルトン氏は、悪名高きタカ派外交官で、国連や多国間主義を軽視する姿勢で物議を醸してきた。イランとの包括核合意からの離脱については、大統領と意見が一致して推進力となる一方で、ディールの成果だけを狙う北朝鮮との安易な妥協については、「盟友」安倍首相と連携しながら、トランプ氏の暴走を抑えようとした。

 本書の価値は、タカ派で「アメリカファースト」のボルトン氏が、「自分ファースト」のトランプ外交の実態を「私の在任中にトランプが下した大きな決定の中で再選を視野に入れていないものを思い浮かべようとしても、非常にむずかしい」として批判的に暴露したことにある。リベラル派からの批判では描き切れないトランプ外交の「身も蓋(ふた)もない」本質がわかる。

(梅原季哉(としや)監訳、朝日新聞出版・2970円)

 1948年生まれ。2019年9月、米トランプ大統領補佐官を解任された。

◆もう1冊

メアリー・トランプ著『世界で最も危険な男』(小学館)。米大統領の姪(めい)が告発。

中日新聞 東京新聞
2020年11月1日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク