中央アジアのある国、後宮で育てられた日本人女性が大活躍

レビュー

15
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • あとは野となれ大和撫子
  • 後宮小説
  • キム

書籍情報:openBD

中央アジアのある国、後宮で育てられた日本人女性が大活躍

[レビュアー] 瀧井朝世(ライター)

 カザフスタンとウズベキスタンにまたがるアラル海。ソビエト連邦時代に大規模な灌漑事業によって干上がり、現代の環境破壊の象徴としても注目を集めた場所だ。ここにアラルスタンという架空の国が出来たという設定なのが、宮内悠介『あとは野となれ大和撫子』。父親の仕事のためにこの地に住む日本人のナツキは、紛争に巻き込まれて5歳で孤児に。後宮に引き取られた彼女はさまざまな境遇を持つ女性たちと一緒に気楽に暮らしていたが、20歳になったある日、大統領が暗殺され、政府の重鎮たちが国外へ逃亡。もぬけの殻となった議会を運営するために立ち上がったのが、後宮の女たちだ。

 国軍や反政府組織、周辺諸国とわたりあうナツキたち。状況はシリアスだが、個性あふれるキャラクターが入り乱れ、物語運びは明るく軽快だ。ただ、この土地の実際の複雑な歴史や宗教の多様さも絡み、現実と照らし合わせられる部分も多い。アラルスタンの識字率や平均寿命など、細部まで丁寧に世界を構築した著者の細やかさにも痺れる。

 後宮ものとしてすぐに浮かぶのは日本ファンタジーノベル大賞第1回大賞受賞作、酒見賢一『後宮小説』(新潮文庫)。中国を彷彿させる架空の国、素乾国で新たに即位した皇帝のために、地方で暮らしていた14歳の銀河が後宮に入り、女大学で学ぶ。宮廷で秘密裡に皇帝暗殺計画が進行するなか正妃となった銀河は、後宮を守ろうと奮闘することに。こちらも軽快な語り口で楽しく読ませる。

 諸外国の影響に翻弄されるアジアの物語、という方面から考えて浮かぶのは、キプリングの『キム』。原作はこれまでにもいくつか邦訳が刊行されているが、木村政則訳が光文社古典新訳文庫から刊行されたばかりだ。植民地時代のインドで育ったイギリス人の孤児、キム。彼はチベットから来た僧とともに伝説の川を探して旅に出る。だがロシアとの諜報戦を繰り広げる英国軍から、ある任務を課されて……。『ジャングル・ブック』でも知られるイギリスのノーベル文学賞作家の代表作。

新潮社 週刊新潮
2021年1月14日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • このエントリーをはてなブックマークに追加