中年警部が職務で知り合った女性とルール違反の恋

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中年警部が職務で知り合った女性とルール違反の恋

[レビュアー] 川本三郎(評論家)

 書評子4人がテーマに沿った名著を紹介

 今回のテーマは「片思い」です

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「ミステリに恋愛を持ち込むな」と言ったのはヴァン・ダイン(『探偵小説作法二十則』)だが、そのルールを破った傑作がある。

 現代ミステリの古典といっていい、コリン・デクスター『ウッドストック行最終バス』

 事件を追うモース主任警部が、捜査の過程で知り合った若く美しい女性に年甲斐もなく恋をしてしまう。

 職務上知り合った女性を好きになるのは厳密に言えばルール違反だろう。

 イギリスの大学町オックスフォード近郊で若い女性が殺害される。ミニスカートをはいたブロンド美人。男に殺されたか。

 事件を担当することになったモースは独身の中年。クロスワード・パズルとワーグナーを愛する。

 この警部が、殺された女性と部屋をシェアしていたスウという女性に会い、ひと目惚れしてしまう。

 彼女は病院に勤務する看護婦。「モースは看護婦の制服を着た娘は、どんなファッション店のドレスで飾りたてた女よりも美しいといつも考えていた」。

 同じように制服姿の看護婦に惹かれる人間としてはこの気持がよく分かる。

 ある時、警部は思い切ってスウをデートに誘う。そこで彼女には婚約者がいると知らされ落胆する。片想いだった。中年男が落ち込むのが切ない。

 ところが彼女のほうも警部を愛していた! それなのになぜ結ばれないのか。ミステリなので詳しく書けないが意外な悲しい結末が待っている。

新潮社 週刊新潮
2021年2月4日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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