<東北の本棚>球児が刻んだ特別な夏

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消えた甲子園 2020高校野球 僕らの夏

『消えた甲子園 2020高校野球 僕らの夏』

著者
朝日放送テレビ「2020高校野球 僕らの夏」取材班 [著]
出版社
集英社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784087880519
発売日
2020/12/16
価格
1,540円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<東北の本棚>球児が刻んだ特別な夏

[レビュアー] 河北新報

 新型コロナウイルス感染拡大で昨年、中止・延期になったイベントは数あれど、日本全国の人々が残念がった行事の代表は、春の選抜高校野球大会と夏の全国高校野球選手権大会だろう。春、夏ともに甲子園が中止になったのは史上初めて。だが、「消えた甲子園」に涙した球児たちには、いつもの夏にも決して劣らない熱いドラマがあった。
 仙台育英(宮城)の主将田中祥都(しょうと)さんは「野球に関わりがある名前に」と、ショートにちなんで名付けられた。野球の申し子のような祥都さんは兵庫県出身で親元を離れて暮らし、甲子園を待ち望んでいた。センバツ中止で、気遣う母親に「自分よりつらい思いしとる人がいっぱいおるから、頑張る」と述べた祥都さん。見守る家族の目を通して選手の胸の内を描いた。
 「甲子園という目標がなくなっても頑張れるのか?」。聖光学院(福島)の選手たちがミーティングを重ねた結果、浮かんだキーワードが「心の中の甲子園」だった。福島独自の地方大会で「変わらない自分たちを試合で表現すること」を目指した。チームが一つになるため、「他喜力」という言葉も編み出した。「自分自身のためじゃなくて、人のために戦う」との発想が選手たちの成長を物語る。
 センバツに21世紀枠で選出されていた磐城(福島)。チームを育てた監督は転任のため、選手たちと一緒に甲子園に行くことができなかった。センバツ出場決定校による甲子園高校野球交流試合が実現した時、甲子園で試合前にノックバットを振ったのは、その前監督だった。磐城は選手全員が福島県出身で、東日本大震災を体験した。地元の期待を背負った選手たちと前監督の絆を象徴する場面だった。
 朝日放送テレビのドキュメンタリーを書籍化した。(会)
   ◇
 集英社03(3230)6143=1540円。

河北新報
2021年3月7日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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