戦地で見いだす読書の喜び、文学の力。 それは人間であり続けるための。

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戦地で見いだす読書の喜び、文学の力。 それは人間であり続けるための。

[レビュアー] 瀧井朝世(ライター)

 シリアの首都ダマスカスの近郊にある町ダラヤは、アサド政権に抵抗する市民が籠城、二〇一二年以降数年にわたり軍に包囲され爆撃されていた。この町で瓦礫に埋もれた本を掘り出し、地下に秘密の図書館を作った若者たちがいたという。デルフィーヌ・ミヌーイ『戦場の希望の図書館 瓦礫から取り出した本で図書館を作った人々』(藤田真利子訳)は、彼らにリモートで取材を重ねたノンフィクションである。

 二〇一五年、著者はネットを通してアフマドという青年とコンタクトを取ることに成功。彼は四十人ほどの仲間と一か月間に一万五千冊の本を取り出し、町の地下に公共図書館を作ったという。本作では図書館の運営状況、町の取材当時の現状、やがて彼らに何が起こるかが簡潔に語られる。

 彼らが語る本への思いがどれも胸を打つ。特に印象深いのは反政府軍の兵士、オマール。彼は「(本は)僕が自分を見失わないように助けてくれたのです」「本を読むのは、何よりもまず人間であり続けるためです」と言い、前線に〈ミニ図書館〉まで作った。兵士たちは爆撃が止むと本を交換し、読書の助言を与え合ったという。だが――。

 モリー・グプティル・マニング『戦地の図書館 海を越えた一億四千万冊』(松尾恭子訳 創元ライブラリ)は第二次大戦中に戦場の兵士たちに本を送ったアメリカのプロジェクトを追ったノンフィクション。士気を鼓舞する目的ではあるが、娯楽のない戦地で、兵士たちがどれほど読書に没頭したかが興味深い。失敗作とされていた『グレート・ギャツビー』が兵隊文庫として出版されて戦地で人気を博し、アメリカ文学を代表する作品になったなど、意外なエピソードも豊富。

 圧制下での読書の喜びを綴ったものといえば、アーザル・ナフィーシー『テヘランでロリータを読む』(市川恵里訳 河出文庫)も文庫化された。革命後の当局に監視される社会で、著者は女子学生たちを集めて秘密の読書会を開く。主な課題図書は禁じられた西洋文学。こちらも、文学の力を感じさせる一冊だ。

新潮社 週刊新潮
2021年12月23日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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