『経営者交代 ロッテ創業者はなぜ失敗したのか』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
実録・ロッテ創業家の華麗なる争続
[レビュアー] 林操(コラムニスト)
「お口の恋人」ロッテが題材のビジネス書なのに「1粒で2度おいしい」。この本、「やめられないとまらない」読み物でもあるんです。
まずはビジネスものとして。日本では製菓大手のロッテを、韓国では化学や土建まで手掛けるロッテ財閥を、一代で築きあげた男の大成功に、著者は前作『ロッテを創った男 重光武雄論』で光を当てたが、今回掘り下げるのは息子たちへの経営委譲の大失敗。創業者側が打っていた入念な対策と、簒奪者側がその対策を突き崩した手法の双方が綿密に描かれているゆえ、オーナー経営者はもちろん、その下で働いたり同族系企業と仕事をしたりする皆様にも一読を推奨できます。特に、大グループのリーダー交代に向けて準備された複雑な仕掛けを説きほぐす第Ⅰ章と、その事業承継の頓挫から教訓を導き出す最終章は、プロ向け・当事者向けの域。
とはいえこの本を、承継だの相続だのとは縁遠いさらに多くの人にお薦めするのは、読み物として。日韓を超えて拡がる企業群の経営権をめぐる父と長男、次男、その取り巻きたちの思惑と言動をひたすら追いかけていくだけで、ワタシゃ一夜の安眠を棒に振り、朝を迎えました。
次男に気配りしつつ長男を軸に後継体制を準備する父、承継に無頓着な長男、自らの立場に不安を抱く次男。やがて次男は、父の仕掛けを逆手に取って長男を放逐し、父さえ半ば禁治産扱いに追い込んでロッテ全体を掌握する――その後の業績不振と父の死までが、経済小説のあれこれからジェフリー・アーチャーや山崎豊子、さらにはシェイクスピアさえ髣髴の濃さ深さです。
日韓がやらなきゃハリウッドがドラマ化・映画化に乗り出すだろうと思えるほどの物語なのに、それが取材や訴訟の記録、現場の録音で得られた登場人物たちの声を交えてリアルに語られる。読後、つくづく感じたね――事実は小説より奇なり。