『ストレス脳』
- 著者
- アンデシュ・ハンセン [著]/久山 葉子 [訳]
- 出版社
- 新潮社
- ジャンル
- 自然科学/医学・歯学・薬学
- ISBN
- 9784106109591
- 発売日
- 2022/07/19
- 価格
- 1,100円(税込)
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<書評>『ストレス脳』アンデシュ・ハンセン 著
[レビュアー] 永江朗(書評家)
◆「臆病で慎重」なのが人類
不安やうつに悩む人は多い。むしろ、不安ともうつとも無縁だという人のほうが珍しいかもしれない。
本書は世界的ベストセラー『スマホ脳』で知られる精神科医による、ストレスと脳の関係についての本。不安や軽いうつは異常なことではない、むしろ脳の正常な反応なのだ、と著者はいう。
どういうことか。
一万年以上も昔、人類は狩猟採集によって生活していた。周囲は危険に満ちていた。少しでも油断すると、肉食獣や毒蛇に襲われた。だから臆病で慎重な者が生き延びた。私たちはその末裔(まつえい)だ。
一万年のあいだに人類は定住して耕作するようになり、生活は激変した。一万年前の祖先のようにビクビクして生きる必要はなくなった……はずなのに、脳の進化はゆっくりしている。一万年前と同じように、ささいなことで不安になる。
うつのほうはちょっと事情が違う。感染症と関係があるというのだ。一万年前はケガから感染症になると致命的だった。だからケガをしそうな状況になると、免疫系がフル稼働して準備態勢に入る。対人関係がギスギスしている、なんていうのも免疫系フル稼働の要因。つまりストレスだ。この状態が何カ月、何年という長さで続くと、うつになってしまう。うつはストレスに対する防御反応だ。
すっかり環境は変わったのに、脳は一万年前のままの気分で「ライオンが襲ってくるかもしれないぞ」「喧嘩(けんか)してケガをするかもしれないぞ」と信号を送る。それが不安とうつの原因だという。
不安やうつが脳の正常な反応だとしても、現代文明をすてて狩猟採集生活に戻るわけにもいかない。どうすればいいだろう。万能薬ではないけれども、適度な運動がリスクを下げてくれると著者はいう。運動をすると脳の中のストレスに関わる部分が反応し、アクセルとブレーキを調整してくれるらしい。
ただし、本書が取り上げているのは軽症な場合。生活に支障がある場合は医療機関で受診を、という。
(久山葉子訳、新潮新書・1100円)
1974年生まれ。スウェーデン・ストックホルム出身の精神科医。
◆もう1冊
川野泰周著『「精神科医の禅僧」が教える 心と身体の正しい休め方』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)