<東北の本棚>本と映画で差別考える
[レビュアー] 河北新報
大崎市在住の元東北福祉大准教授(図書館学)が書評や映画評をまとめた。全体に共通するのは、性別や人種、経済力の違いに基づく差別への厳しいまなざしだ。
書評は、東大生ら5人による女子大生への強制わいせつ事件に着想を得た小説「彼女は頭が悪いから」や、南アフリカで人種隔離政策の撤廃のために闘った大統領の伝記「ネルソン・マンデラ その世界と魂の記録」など30冊を取り上げた。
男性優位の社会で女性が直面する困難を描いた韓国の小説「82年生まれ、キム・ジヨン」に関しては「途轍(とてつ)もなく優れたストーリーテラー、すごい衝撃、いわゆるフェミニズム文学がベストセラーになった」と驚きを隠さない。主人公の女性にタクシー運転手が「乗せてやった」と言い放つ場面を引き合いに、著者は似たような経験談を披露した上で「読者がまるで自分の話のようだというのに納得する」と称賛する。
映画評で紹介したのは、車いす生活を送る大富豪と介護人になったスラム街出身の黒人青年の物語「最強のふたり」や、ろうあ者の両親、弟と暮らす健聴者の少女が主人公の「エール!」など24作品だ。「万引き家族」を巡る評論では、万引で生計を補う貧しい家族でありながらも、寒空に放置された少女を保護し、楽しげに暮らす姿に着目。「血縁ではない家族、その限界、でも別の光が仄(ほの)かに見える」と希望を見いだした。
著者は書評、映画評それぞれで戦争関連の作品も選んだ。石垣りんさんの詩集や、第2次世界大戦下の実話を映画化した「ユダヤ人を救った動物園」などだ。ロシア軍のウクライナ侵攻による悲惨な現状も踏まえ「差別を生み助長するあらゆる悪の根源」と戦争を糾弾する。
(柏)
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