中国SFなら、これを読め! 絶対に間違いないケン・リュウ編のアンソロジー

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折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー

『折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー』

著者
ケン・リュウ [編集]/中原 尚哉 [訳]/大谷 真弓 [訳]/古沢 嘉通 [訳]/鳴庭 真人 [訳]
出版社
早川書房
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784150122539
発売日
2019/10/03
価格
1,100円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

金色昔日【こんじきせきじつ】

『金色昔日【こんじきせきじつ】』

著者
ケン・リュウ [編集]/大森 望 [訳]/中原 尚哉 [訳]/大谷 真弓 [訳]/鳴庭 真人 [訳]/古沢 嘉通 [訳]
出版社
早川書房
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784150123871
発売日
2022/11/02
価格
1,518円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

中国SFなら、これを読め! 絶対に間違いないケン・リュウ編のアンソロジー

 中国SFが日本でブームを巻き起こしてから3年あまり。残念ながら、文庫で読める邦訳書はまだほとんどない。ケン・リュウ編の現代中国SFアンソロジー『折りたたみ北京』は、その数少ない例外のひとつ。中国SFの面白さを広く知らしめた記念すべき一冊だが、同じハヤカワ文庫SFからこの11月に出た『金色昔日』は、その続集にあたる。もともと『月の光』のタイトルでおととし刊行。中国っぽい題名にしたほうが売れるという判断なのか、文庫化を機に改題された。2010年代に発表された作品を中心に、14人の作家による16篇を収める。

 文庫版の表題作は、逆向きに進む(現在から過去へと遡っていく)現代史を背景に主人公の純愛を描く、前代未聞の奇想小説。著者の宝樹は劉慈欣の《三体》三部作が好きすぎて自分で勝手に続きを書いてネットに発表したら大評判になり、劉慈欣の公認を得て商業出版され、ラッキーなデビューを果たした人。時間SFの名手としても知られ、短篇集『時間の王』もすでに邦訳されている。

 馬伯庸「始皇帝の休日」は、「朕はこれより休暇をとってゲーム三昧となる」と宣言した秦の始皇帝が、『シヴィライゼーション』だの『牧場物語』だの『逆転裁判』だのを遊びまくる爆笑ゲーム小説。夏笳「おやすみなさい、メランコリー」は、コンピュータ科学の父、アラン・チューリングと、彼が晩年に開発していた人工無能(的な機械)との対話記録が見つかった――という設定のもと、AIと人間の心の問題を重ね合わせる。その他、オタク版『戦国自衛隊』みたいな張冉「晋陽の雪」なども含め、歴史ネタの短篇に秀作が多いのは中国SFの特徴か。

 編者のケン・リュウは中国生まれの米国人。英語で小説を書き、作家としても数々の賞を受賞した実力派。日本でもベストセラーになった作品集『紙の動物園』(ハヤカワ文庫SF)の表題作は、ろくに英語のできない中国出身の母親とアメリカ生まれの息子との複雑な関係を細やかに描く、浅田次郎ばりに泣かせるファンタジー短篇だ。

新潮社 週刊新潮
2022年12月8日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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