探偵「フィリップ・マーロウ」第2弾 物語の魅力を深める名優たちの個性

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さらば愛しき女よ

『さらば愛しき女よ』

著者
レイモンド・チャンドラー [著]/清水俊二 [訳]
出版社
早川書房
ISBN
9784150704520
発売日
1983/10/01
価格
924円(税込)

探偵「フィリップ・マーロウ」第2弾 物語の魅力を深める名優たちの個性

[レビュアー] 吉川美代子(アナウンサー・京都産業大学客員教授)

 ハードボイルド小説と言えば、レイモンド・チャンドラーによる探偵フィリップ・マーロウのシリーズをあげる人が多いだろう。シリーズ2作目が、’40年に発表されたこの小説だ。

 探偵マーロウは、出所したばかりの大男マロイが愛する女ヴェルマを必死に探し求める現場に居合わせ、行きがかり上、彼女を探すことになる。また、ある男から盗難にあった高価な翡翠のネックレスを犯人から買い戻す取引現場での護衛の仕事を依頼されるが、現場で男は殺されてしまう。人探しと殺人事件、この二つに繋がりなどないと思われたが、マーロウが探り出した真相とは……。

 ’75年に映画化され、ロバート・ミッチャムがマーロウを演じた。年輩の映画ファンにとってはお馴染みのハリウッドスター。眠たそうな優しい目と長身がトレードマークで、多くの映画でタフガイ(この言葉が通じるアナタは高齢者!)を演じた。すでに50代後半になっていたので原作のイメージよりは年上だが、’42年に映画界入りのミッチャムなので、登場しただけで映画の舞台である40年代初頭のロサンゼルスの時代色を漂わせて、実に味がある。ヒロインの悪女を演じるシャーロット・ランプリングは当時29歳。76歳の今も活躍している名女優だが、この頃は気品と退廃が同居するミステリアスな美貌で、写真家ヘルムート・ニュートンのヌード写真モデルになったり、名だたるファッション誌の表紙を飾ったりした。この作品では出演場面は少ないものの、危険な香り溢れる美しさが印象的。

 映画は原作よりストーリーをやや簡潔にした。例えば、マーロウと元警察署長の娘との恋の駆け引きを省き、その分、しがない探偵稼業に疲れ、人生にわびしさを感じ始めた初老のマーロウという、映画独自の人間味が加わった。売春宿の用心棒のチョイ役で、『ロッキー』でブレイクする直前のシルベスター・スタローンが出ていることにも注目。

 ところで、マーロウは四六時中酒を飲む。朝起きて、事務所で、訪問先で、寝る前にも、ボコボコにされた後にも飲む。でもアル中じゃない。ハードボイルドってこうでなきゃ!

新潮社 週刊新潮
2023年2月2日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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